ひょんなことからサソリさんに拾ってもらってしばらく経った。私が大いにサソリさんの役に立っているかというとそういうわけでもないのだが、サソリさんは捨てないでおいてくれるので一応感謝している。
サソリさんは今日珍しくヒルコから出ていて、赤い髪を風に揺らして遠くを見ていた。私というと乾いた風が頬に当たるし、サソリさんの言いつけで伸ばしていた髪が暴れて鬱陶しいので早く帰りたかった。
「おいブス」
といっても私はサソリさんの忠実な部下(というか奴隷)なので帰りたいなんてスパッと言えず。ていうかブスってなんだブスって。もう慣れたけど。お前だってほんとはもう35歳だろこの若作り野郎、とは言わない。おとなしくそばに行ったのにサソリさんはだんまり遠くを見る。用事は?
「あのう」
「なんでもねえよ」
なんですかそれ。用がないなら呼ばないでくださいよマジで。早く帰りましょうよ。暁の任務も全部済んだじゃないですか。私なんにもしてないけど。
ブーブー文句を垂れてもサソリさんは私を叩かなかった。うるせえよと言われただけだった。いつもは容赦なくブン殴られるというのに。どうしたんだこの人、熱でもあるのか。服の襟元を軽く引っ張られた。いつもは容赦なく締め上げられるのに、なんだなんだ。つーか顔近っ。唇になんか押し当てられた。固っ。つめたっ。
「傀儡にこんなことされたところで意味ねえか」
サソリさんが自嘲するように笑った。なんだか悲痛だった。あ、私キスされたんですかね。事を理解するとちょっと恥ずかしくなった。ていうかマジでそんな顔しないでくださいよ
「そ、そんなことないですし」
「馬鹿言え」
なんでそんなこと言うんですか