星がよく見えるところがあるんだよ。月本くんがそうやってわたしを連れてきてくれた。ペコに教えてもらったんだって、小さい頃に。階段を上ったてっぺん、風が通り抜けて肌寒い、人通りもないけれど、本当によく見える。きれい。流れ星だって見つけられそうだ。

「綺麗だね」

そう言って空を見上げる月本くんだって、星に劣らずきれいだった。わたしはその横顔をすこしどきどきしながら眺める。風が強い。腰掛けている階段のコンクリも冷え冷えしている。薄手のカーディガンじゃなくて、すこし厚めのセーターを着てくればよかったと思った。へっぶしゅん。せっかくロマンチックなムードだったのに、わたしのあまりにもぶさいくなくしゃみのせいで台無しだ。わたしはとんでもなくくしゃみをするのが下手だ。いつもへんなふうになってしまう。月本くんが呆れたように笑ってた。

「寒い?」
「へ、へいきだもん」
「みょうじさん、これ、」

肩に学ランをかけられる。わたしが何も考えずに薄着をしてきて、月本くんが上着を貸してくれる。何度目だろ、学習しよ。でもこれがすこし嬉しくて、厚着をするのをつい忘れてしまう。

「月本くんは寒くない?」
「僕は平気。セーター着てるし」

月本くんの学ランといっしょに体を丸める。月本くんちの匂いがする。空を見上げても、星はこうこうと輝いているけれど流れ星がやってくる気配は一向にない。隣の月本くんに目をやると、変わらず空を眺めていた。すごくどきどきする。かっこいい。

「僕の顔に何かついてる?」
「ううん。…すき」

僕もすきだよ。
くっと顔を寄せた月本くんが、柔らかく囁いた。ゆっくりと触れあう唇。月本くんの唇はすこし乾燥していた。あとでリップクリームを貸してあげよう。触れあっただけの唇がすっと離れて、おでことおでこがこつんとぶつかる。眼鏡のフレームが邪魔して月本くんの顔はあまり見えない。すっと月本くんの手がわたしの手に重ねられる。撫でるように甲を這って、やさしく握った。もう一度触れあう唇。角度を変えてもう一回。やさしく、やさしく。下唇をやんわりと吸われ、離れ、赤い舌がゆっくりとわたしの唇を、

「あら、あらあら」

突然降ってきた見知らぬ声に、わたしたちはぎょっとして体を離した。振り返ると買い物帰りと思しきおばさんが、ネギがはみ出たビニール片手に突っ立っていた。ひょえぇ、見られちゃった。結構遅いし、絶対誰も来ないと思ったのに。てか今更買い物?この人のうち今日晩ご飯大丈夫かな…
おばさんは、ごめんなさいねと足早に去っていった。肝が冷えるとはこういうことを言うんだと思った。唇だけが熱を持って、高まる鼓動をわたしに伝えている。月本くんを見ると、しまった、というような苦い顔をしていた。

「び、びっくりしたあ」
「ごめん、」
「いいよいいよ。知らない人だし」
「……小泉先生の奥さんだよ」
「え?」
「だから、小泉先生の奥さん」
「……まずいね」