六
いつもは和気あいあいとしている食堂に今日は重苦しい空気が漂っていた。
「なんであんな事を‥…」
「聞いて元親。これは私の我儘よ。
皆が傷ついた姿を見たくないの。
わかって」
「俺はお前を犠牲にしてまで自分の命を繋ぎたくねぇ!!
霧姫が隣りにいるなら誰にも負けねぇ
だから!!」
その後に続く言葉は言わなくてもわかる。
わかるからこそ、辛いんだ。
元親の手にしていた碇槍が細かく震えて音をたてた。
「霧姫。
お前に長曾我部の軍師として命令する。
ここに残れ」
元親は私達に命令なんてすることはなかった。
初めての命令がこんな優しいもので‥…
「いくら貴方の命令でも従えない。
私は豊臣に行く」
その命に従うことのできない自分がとても悔しい。
「私が行けば丸く収まるの。
元親も誰も傷つかない、だから‥」
「てめぇの言い分なんぞ知るか!」
とうとう元親はキレてしまったみたいだ。
愛用の碇槍が振り上げられ、咄嗟に避けることが出来なかった私の鳩尾に入る。
「っ‥…!」
意識が暗転する前に見えたのは、苦しそうに顔を歪めた元親の姿だった。