きらきらしたものがすきだ。
たとえば星とか万華鏡とか、そういうものももちろん好きだけど もっときらきらしたもの。恋をして毎日相手を眺める視線だとか、夢に向かって全力投球している姿。なにものにも変えられないこのきらきらが私は大すきだ。

「あ」

まぶしいくらいの金色と、ファインダー越しに目が合う。かしゃりと音を立てたカメラに少し驚いたような顔をした。

「…え、今おれの事撮っとった?」
「あっ、ごめん勝手に撮って!失礼しましたっ」
「あ、いやいやええねん!ちょっとびっくりしただけ」

無断で撮影したことを詫びて頭を下げると、彼は慌てたように手を振る。男前に撮れた?とこちらに小走りで駆け寄ってきた彼に先ほど撮った写真を見せるとうお、と再度目をまるくした。

「綺麗に撮れとるなぁ、カメラマンみたいや」
「被写体が良かったからだよ」
「なにいうてん、ほかのやつが俺を撮ったら毎回ブレとるで」

浪速のスピードスターの速さにはカメラもおいつけんっちゅー話やな!
嬉しそうに話す彼にすこし首を傾ける。浪速のスピードスター、ってポケモンのこと?尋ねるとアホか!と勢い良くツッコミを入れられてしまった。さすが関西人。

「浪速のスピードスターっちゅうたら俺!テニス部の星、忍足謙也やろ」
「えぇと、そうなんだ?」
「…俺、わりと知られてる存在やと思ってたわ」

こんどはしょんぼりという効果音がつきそうなくらいに眉を八の字に下げた。ころころ表情が変わる人だなあとまるで観察するように見ているとパコンという小気味好い音と共に忍足くんの片膝がかくりと曲がった。突然のことに驚いた忍足くんはそのまままるで土下座をする様に地面に手をつく。なにが起きたのかわからずに目をまるくしていると、足元に転がってきたのは黄色い小さいボール。

「…これって、」
「謙也ぁ、練習ほっぽいて女の子とおしゃべりとは随分いいご身分やなぁ?」
「し、白石!いきなりなにさらすねん!」
「ゲームするっちゅうとるのに帰ってこんし、ちょっとコートの外見たらそれはそれは楽しそうに話とるもんやから」
「やけどもいきなり膝にボール当てんでもええやろ…」
「何回も声かけたで、俺は」

それはすまん、と手についた砂を払いながら立ち上がった忍足くんにまだお説教を続けそうな白石くんに慌てて口を挟む。

「白石くん!私が忍足くんの邪魔しちゃったの」
「へ、あれ。みょうじさんやん!」

忍足くんの写真を勝手に撮ったことを謝ると ああそういうことなん、と綺麗な顔で笑った白石くんにほっと胸を撫で下ろす。
それよりも久しぶりやなぁ。そうだねぇ と笑いながらベタな会話をしていた私たちに忍足くんは首をかしげている。

「知り合いなん?」
「あぁ、1年のとき委員会一緒やってん。保健委員」

そう、白石くんとは始めて仲良くなった男の子の友達。1年の時は委員会も一緒でクラスも近く仲良くしてもらっていたが、2年になって私が保健委員をやめてから白石くんに声を掛ける機会はめっきり減ってしまった。白石くんからすれ違うたびに挨拶はされていたものの、3年になってクラスが遠くなってからは廊下で会う機会もほとんどなくなっていた。
だから、こうして話をするのは久しぶりで少し嬉しくなる。

「しかし珍しいなぁ、みょうじさんがテニスコートに来るん」
「通りかかったら音が聞こえて…。少し覗くだけのつもりだったんだけど」
「でもなんで謙也なん?そこは俺のこと撮ってほしかったわぁ」

俺試合しとったんに!と少しだけ拗ねたように言う白石くんに私が口を開く前に忍足くんが誇らしげにフン、と鼻を鳴らした。

「俺の方がかっこよかったっちゅーだけの話や」
「…納得いかへん、謙也は外周しよっただけやん」
「はは、白石くんもすっごくかっこよかったよ」

ほんまか!?と目をきらきらさせながらラケットを握り直す白石くんは相変わらず太陽みたいな笑顔だ。すっごくかっこよくて言われ慣れてるだろうにこういうときに人懐っこい笑顔を浮かべるからこそ白石くんはもてるんだろう。3人で談笑しているとコートのほうから部長、と気だるげな声が聞こえて白石くんはハッとしたように振り返った。

「すまん、呼ばれとるわ!謙也、もう金ちゃんと財前がコート入っとるからおまえの試合はその次やで。みょうじさん、写真部今度遊び行くから次は俺の写真も撮ってな」

私の返事を聞き届けてから颯爽とコートへ戻って行った白石くんの後ろ姿をぼうっと見遣る。そんな私を現実に引き戻すように忍足くんが口をひらいた。

「みょうじさんって写真部なんや」
「あ、うん!細々と活動してるんだ」
「へえ、写真とか見せてもらってもええ?」
「うん、どうぞ」

データフォルダを開いて一眼を差し出すと忍足くんはおそるおそるカメラを受け取った。壊れ物を扱うようなそれにちいさく笑うと忍足くんが少し照れたように眉をぴくりと動かす。壊れたりしないから大丈夫だよと声を掛けるとホッとしたような顔でボタンを操作していく。忍足くんの指がボタンを押すたびに表示される画像は頼まれて撮ったもの以外はほとんどが自分の趣味の写真だ。部活用ではなく個人のカメラなので当たり前だけど、少しだけ恥ずかしい気持ちになりながら黙ったままの忍足くんの顔を一瞥すると何故かとても真剣そうな顔をしている。

「お、忍足くん?」
「ん?」
「いや、なんかすごい顔して写真みてたから…。もしかして変な写真あった?」
「ん、変っていうかなんかキラキラしとるなーおもって」

写真全部キラキラしとる、と指をさすそこには流星群の日に三脚を立てて撮った星空や雨が上がったあとの草木にかかった露など、私のすきなものばかりだ。

「私、きらきらしたものがすきだからそういう写真ばっかりになっちゃうみたい」
「そんななかに俺が入るってなんや申し訳ないわ」

困ったように笑う忍足くんにあわてて頭を振る。そんなことない!と力が入る私に忍足くんはまだ納得していないような表情だ。白石もいうとったけど と言いづらそうに口ごもり、少し間があいて意を決したように口を開いた。

「…なんでおれなん?言いたないけど、ここには白石とか財前とかもっとかっこええ被写体がおるんに」

自分で言うとかダサすぎるわ!と私が口を開く前に恥ずかしそうに頭をくしゃくしゃ掻く忍足くんはそのまま違う話に流そうとしている。それを止めるようにあわてて口を開くと驚いたような顔でこちらを見た。

「きらきらしてたよ」
「え?」
「忍足くんが、いちばんきらきら輝いてたんだ」

だから手が勝手に動いちゃってた。
嘘はひとつもいっていない。本当に走っている忍足くんがきらきらかがやいていて綺麗だったのだ。もちろんそれは太陽に反射して眩しい髪色も理由のひとつだけれど、なにより走っているときの忍足くんが本当に素敵な表情だったものだから。
軽くまくしたてるように早口で語ってしまったそれに忍足くんはぽかんと口をひらいていたが、あの、とちいさく声を掛けるとみるみるうちに耳まで真っ赤になってしまった。

「お、おおきに、あ、あのな、俺もう行かなあかんから、」
「そっか、話してくれてありがとうね。部活、がんばって」
「おん、」

くるっとコートへ踵を返して何歩か歩いたところでふいに忍足くんがこちらを振り返る。振っていた手をとめてその行動に首を傾げると真っ赤な顔のままスゥ、と息を吸って大きく口を開いた。

「あ、あんな!その写真現像したら俺にもまた見せてな!」

私の返答を聞く前にびゅん、と音が聞こえてきそうなスピードでコートへ駆ける忍足くんは彼が言っていたとおりまるでスピードスターのようだ。走る振動に揺れる髪はきらきらしていて、お昼なのに流れ星のようだった。


150210


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