「あ」
思わず出てしまった声に視線が集まる。どうしたんですか?、聞いてきたのは隣の席の柳生だ。いや、しまった。今日は学期末の試験があるのに消しゴムを忘れてしまった。きっと昨日勉強した時に消しゴムだけ筆箱に入れ忘れたのだろう。
「いや、消しゴムを忘れてしまった。…柳生、消しゴムをふたつ、持ってはいないか」
「珍しいですね、真田くんが忘れ物とは。大変申し訳ないのですがあいにくふたつは持っていなくて…。私のをお使いになられますか?」
「…それは遠慮しておく。お前がこまるだろう」
「そうですね…」
すいません、申し訳なさそうに頭をさげようとする柳生に手をだしてかぶりをふる。いや、謝るな。何とかなるだろう。そういうと柳生は軽く笑って視線を机に戻した。
さて、そうは言ったものの今日は運が悪いのかマーク式の教化もあるときた。ふむ、どうしたものかと頭を捻らせていると、とんとん、と机を指でたたかれる。顔を上げれば前の席のみょうじが軽く笑っていた。
「さなだ、消しゴム忘れたんだって?」
「…聞いていたのか」
「や、聞いてたってか聞こえたし」
いんや、さなだってほんと抜けてんね。大事なとこでこけるタイプでしょ、たるんどるぞー。うるさい。ありゃ、ご機嫌ななめ。
…そりゃあ斜めにもなる。突然話しかけてきて馬鹿にされては。それにみょうじとは特に仲が良いわけではないのだ。それなのに呼び捨てで呼ばれ、馴れ馴れしい彼女が少し苦手だった。(まあ彼女は俺にだけでなくみんなにこんな感じなのだが、)だいたい女子というものは男子に君をつけてもっと淑やかにするものではないのか。
「あ、そう。消しゴムなきゃ困るでしょ。今日マークあるよ」
「知っている。…が、なんとかなるだろう」
「ふうん、」
特に興味なさげにそういうとみょうじは前へ向き直った。なんだ、ただからかっただけか。…これだから女子は苦手だ。なにを考えているのかわからない。
消しゴムのことは気にせずに10分後のテスト勉強でもしようと教科書とノートを開いていると、またもみょうじがこちらを振り返って少したじろいだ。
「まだ、なにか用か」
「ううん。これ」
突然さしだされたのは四角に切り取られたちいさな消しゴム。
「小さくてごめんけど、ないよりはいいでしょ。あげる」
にこりと笑われてどきりとした。いや、まさかそんな、ばかな。