流れている噂を知ってか知らずか分からないけれど、白石は相変わらず変わらない態度で私へ接していた。
私がその噂を知らないなんて、きっと思っていないはずなのに。
佐々木さんと白石の話はもうほとんどの人間が知っていた。もともと人気のある二人だ、話題が広まるのも早いものだった。
…なのに、どうして白石は言ってくれないんだろう。どうして、佐々木さんが毎日お昼を持ってきていることを教えてくれないんだろう。どうして、噂を否定しないんだろう。どうして、どうして、どうして。
毎日、授業中も休み時間も放課後も、家に帰っても嫌な想像だけが頭に残る。
着替える気力もなく、制服のままベッドに転がりながら何気なくスマホのカメラロールを開く。そこには並んで写る白石と私がいた。……付き合ってはじめて、ふたりで出かけた時の写真。写真に写っているふたりの表情は少しだけ緊張したような、照れたような顔をしていたが幸せそうだった。
最近はずっと、写真すら撮っていない。そもそも、ふたりで出かけた記憶は遥か昔だった。
いつからだっただろう。白石といるのが気まずく感じるようになったのは。
そして、白石に見合うための完璧な彼女を演じようとし始めたのは。いつからだろう、白石の隣に立つことが怖くなったのは。いつからだろう、それでも白石が最後に選んでくれるのが自分だということに優越感を感じ始めたのは。いつから、いつから。白石が、またあの私の嫌いな顔で笑うようになったのは。
思い出せない。白石の楽しそうな顔を思い浮かべることすら難しくなっていた。白石と付き合い始めてワクワクしながら見にいっていたテニスの練習も、もう今ではコートを見ることすら怖くなった。私の知らない白石がそこにはたくさんいるような気がしたから。
どれだけ頑張っても、背伸びしても、私にはあんなに素敵な彼の隣に堂々と立てるような彼女にはなれる気がしなかったから。
臆病者。
罵られるような声が頭の中に反芻して吐き気が込み上げる。
その日、白石からの連絡は来なかった。
151120