白石が女の子と喋ってるなんて当たり前だ。そもそもクラスには女の子がはんぶんいるんだし、白石は優しいし、かっこいいし、モテるから。私は彼女なのに教室では彼女じゃない、クラスメイトの女の子たちとの方が白石はたくさん喋ってる。
…白石がわざとそうしてる嫌なやつとかじゃなくて、私が話しかけてほしくないと言ったから。自分からお願いしたくせに、どうして私には笑いかけてくれないの、とか少しくらいこっちを見てくれてもいいじゃん、とか。意味がわからなくてわがままな自分の真っ黒なものがドロドロと心から溢れ出てしまいそうで蓋をするように瞼を閉じた。

かっこよくて、優しくて、頭もよくて、ネタはちょっとおもんないけど、スポーツもできる、そして部長までやっている完璧すぎる彼に釣り合う日なんて、きっと来ない。

* * * *


「みょうじさん!」
「…白石くん?」

ガラリと開かれたドアの向こうには、いつもはスマートな笑みを浮かべている頬がほんのり桃色に染まっていて、熱でもあるのかと思った。
私は白石蔵之介という男が苦手だった。
女子から人気のある、かっこつけの、部活ばっかりで委員会に全然こない男。綺麗な顔で申し訳なさそうに笑っとけばみんなが許してくれると思ってそうなその笑顔が嫌いだった。

だから、当番が同じになってからはその顔をされる前に白石の仕事を半ば奪うようにして部活へ行けと押し出していた。くしゃりと歪む、困ったような申し訳なさそうな顔にさらに苛立って、謝罪と感謝の言葉は聞こえないふりをしていた。
極力、関わらないように。そう過ごしてきたのに。

肩で息をする白石の髪は夕日に照らされて美しく光っている。腹立たしいくらいにどこまでも完璧な人。

「どうしたの。部活中でしょ、今」
「どうしても、伝えたいことが、あって」

はぁ、と深く息をして背筋を伸ばした白石がこちらをまっすぐ見つめる。

「好きです。俺と、付き合うてください」

はじめてちゃんと見た、色素の薄い瞳に映る夕焼けの色に少しだけどきりとした。


151031


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