売店で買った焼きそばパンとミルクティーを持って裏庭のベンチへ腰掛ける。
今日はいつも一緒にいる友達が風邪で休んでしまったのでひとりだ。いままでこんな時はいつも比呂士がそばにいてくれたけど、もちろん今はそんなことあるはずもなく。
パリ、と焼きそばパンの包装を破って一口かじりつく。いい天気だし焼きそばパンもいつも通りの味。だけど何だか美味しいとは思えなかった。小さくため息をついて隣に置いておいたミルクティーをつかもうとする。が、

「あれ?」

ない。さっき置いたミルクティーがなくなっている。落としたのかと思い足元を見るが見当たらない。どこにいったのだろうと頭を悩ませているとズ、とストローで何かを吸う音が聞こえた。音の方向、私の真後ろを振り返るとそこにはひどく目立つ銀髪が陽に当たってきらきらと輝いていた。

「仁王」
「ぼっち飯かー、つらいのぅ」
「うるさい。……ねえ、もしかしてだけどその手に持ってるやつ」
「プリッ」
「ちょっと!」

仁王の手元には私が探し求めていたミルクティーと同じものが収まっていた。しかも未開封だったそれは店員さんが同封してくれたストローがきちんとささっており仁王の口元にある。
まさかとは思うけどそれ私のじゃないの。私の問いかけを意味のわからない言語で流した仁王は後ろから回ってベンチへ腰掛ける。

「俺、午後ティー派なんじゃけど」
「人のもの勝手に奪っといてそれはさすがに怒るよ。はやく買って来て」
「これあげるき」
「仁王の飲みかけとか無理」
「特別大サービスなんに」

猫のように笑う仁王にいらついていると、さすがに私の怒りを察したのかポケットから何かを取り出した。仁王が取り出したのは缶ココア。どうやら寒さに耐えきれず中庭に来るまでの自販機で購入して暖をとっていたらしい。これで勘弁してくださいと渡されたぬるくなった缶ココアに少しだけ眉をしかめるがおとなしく受け取っておいた。甘いものはあんまり好きじゃないけれど、飲み物がないよりはマシだ。カシュ、と音を立ててプルタブを引くと中のブラウンが揺れる。自分から突き放したくせに、こんな時まで比呂士の影を探してしまう自分が馬鹿らしくて少しだけ嘲笑が漏れた。

「で、何の用?」
「なんがじゃ」
「何か用があるからわざわざ私のところに来たんでしょ」
「このまえ言ったじゃろ、最近おまえさんキノコ生えそうなくらい暗いき心配しとるって」
「…うそつき」

めんどくさがりな仁王に心配されるほど私は仁王と仲良くない。
クラスは一緒だけど比呂士がいないとあんまり話さないし、話しかけない。まあ仁王ファンの人たちって過激だから別にそっちの方が嬉しいんだけどね。

「このちっこい花、すきなんか」

手元のココアを揺らしながらぼんやりとシロツメクサを見ていると仁王に声をかけられる。踏まれても踏まれても健気に咲く様子が好きだ。私だったら一度踏まれたら立ち直ることなんてできないだろう。頷くと意外だと言わんばかりに驚いた顔をされる。どうせ花を愛でる趣味なんかなさそうって言いたいんでしょ。まあ、実際シロツメクサ以外のお花には全然詳しくないんだけど。

「みょうじ」

呼ばれた声に向くと、目の前で何もない手をグッパグッパと交互に開閉される。それから手をぎゅと握ってそれを振る仕草。するとなんとにやり顔の仁王が開いた手からポンっと四つ葉のクローバーが出てきた。
さっきまで何もなかったそこに現れた四つ葉のクローバーに目をまん丸にしている私を見て仁王は満足げに笑っている。

「すごい!どうやったの!?」
「実は魔法が使えるんじゃ」
「…うーん、どうやったんだろ」
「無視かい」

仁王の手を表返したり裏返したり確認しても仕込んだ形跡はない。感心していると次は左手を出すように言われたので言われたとおりに左手を仁王の前に差し出す。
またなにかマジックをやってくれるのかとわくわくしながら見ていると、スッと私の目元に手が覆いかぶさる。いっしゅん暗くなった視界に驚いているとすぐにそれは外された。
なにするんだ、と仁王を見ると笑いながら私の左手を指差している。

「わあ!かわいい!」

目を落とすといつの間にか左手の薬指に器用にも作られたシロツメクサの指輪がはめられていた。

「仁王、すごいね!これもらってもいいの?」
「おん、どうぞ」
「本当すごい!…でも薬指って仁王ファンにころされそう」
「俺もバレたらころされるかも知れん」
「え?誰に?」
「こわ〜い人じゃ」

いたずらっ子のような顔ではぐらかされてしまった。誰だろう、怖い人って。少しだけ考えるそぶりをしているとすぐわかるぜよ、とおでこを軽くつつかれた。文句のひとつでも言おうとしたけど口元がにやついてしまう。こんな素敵なもの、本当に貰ってもいいのかな。この一瞬でひとりでご飯を食べてたさみしさも大好きなミルクティーを取られた怒りもすべて吹き飛んでいった。

「へへ、ありがとう仁王。嬉しい」

素直に感謝を述べると仁王は何故か少しだけホッとしたような顔で笑う。

「みょうじには笑っとってもらわんと困るんよ」
「え、」
「おまえさんが元気ないと柳生までどんよりじゃ」
「……比呂士が」
「何があったかは知らんけど、はよう仲直りしんしゃい」

パートナーにまでキノコ生えてしもうたら俺が困るぜよ。仁王の言葉にどきりとした。私のせいで比呂士が落ち込んでいるなんて。はやく謝らなきゃいけないって分かってるけど、弱虫の私は勇気がでないのだ。
比呂士、許してくれるかな。今頃謝って、今さら何だって思われないかな。そんな不安がぐるぐると心の中に渦巻く。すると、うつむいた私を安心させるように仁王の手が私の頭をぐしゃりとかき混ぜた。


「心配いらんよ。もし柳生がわかってくれんかったら、俺が柳生をしばいちゃる」

猫のように笑う仁王に少しだけ胸が軽くなった気がした。このまま逃げてちゃ、ダメだ。


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