6 手



【現には逢ふ縁も無し夢にだに間無く見え君恋に死ぬべし。
現実には逢うすべもない。せめて夢にだけでも絶えず見えて欲しい。このままでは恋の余り死んでしまうでしょう。】


「…俺のことよく見て」

「はい…」

ここは夢の中、彼が話しかけてきた。
パッと顔を上げて見ると誰かに似ていた。目に写るのは銀髪の髪に赤い瞳、頭には狐のお面をつけており和服を着ている。そして背後にはゆるゆると揺れる長い尻尾だ。

「…これが俺。名前は、俺のこと怖い…?」

「いいえ、怖くないですよ」

「そっか…よかった…」

するりと彼の手が私の手に触れる。あれ…これ、なんか知ってる。どこで、いつ、触れた?

「…あなたは、私のこと知ってますか?」

「あぁ、勿論。名前が小さい頃から」

私の小さい頃から?何故?どこかで、会ったことがあるの?
どこで…。

「またな、名前」

切なそうな声で別れを言った彼。待って、あなたのことを思い出しそうだから。あなたにお礼を言いたいの、でも思い出せない。待って!待って!

「待って!」

パッと目覚めた時には耳元で目覚ましが鳴っていた。また、あの夢。起きた時には顔を思い出せない、靄がかかっているようだった。

「…あの人のことを私は知ってる?」

手の温もりを確かめるように手を握る。
あの人から切ない想いがひしひしと伝わってきた。私の方も切なく感じてしまう。

「…ごめんなさい、わからなくて…」









本日は休みのため神社に来た。夢のことが気がかりでふらふらと歩いていたら

「あぎゃ!」

ストーン!と転んでしまった。恥ずかしい…。いてて…と思っていると「大丈夫か!?」なんて声がした。

「ほら、手」

「わ…すみません…」

手を差し伸べられ手を取った時、懐かしい感じがした。その感情におどろき私は手を差し出す主を見ると、神主の坂田さんだった。

「…さかた、さん…」

「どうした…?って血出てるぞ!」

「え、わぁ!」

勢いよく転んだのか膝から血が出ていた。これは痛そうだと思いつつもじわじわ痛みが出てきた。

「と、とりあえず絆創膏と、消毒するから中入れるか?」

「う、うん!」

神主さんが休む休憩室…のような部屋に案内された。そこには飲みかけのイチゴ牛乳や、食べかけのお菓子など置いてあった。坂田さん好きなのかな…。

「しみるぞ」

「はい!」

チクチクと傷口に消毒液を塗る坂田さん。手慣れているようで大きめな絆創膏を膝に貼られて終わった。恥ずかしいこの歳で…。

「何か、考えてたのか?」

「…いえ、そんな事ないよ」

「そっか…。今日は神社にどんな用で?」

「あ、えっと油揚げあげに」

「いつもありがとうな。お狐様も喜んでるわ」

「ふふ、そうだったらいいなぁ」

坂田さんと話しているとなんか安心する。そのあとも、この神社の掃除大変だとか色々聞いた。とっても楽しい時間になった。

「では、また」

「おう、待ってるわ」

鳥居の下で手を振る私も、答えてくれる坂田さん。優しい人だと思いつつもマンションを目指す。
坂田さんの手、どこかで。
どこで?

て…手…夢…?

夢の中の、手に似てる。
思い出しても顔に靄がかかるが手は覚えている。彼の手に似ている。
彼の手と…あと…懐かしい…?夢の中でのあの人は小さい頃からと言っていた。
小さい頃、昔神社でいなくなっていたが、見つかったことを思い出した。

「まさか、ね?」

その言葉が正しかったと今はわからない。
この考えがあっているかわからないが、今度夢の中で会った時に聞いて見るしかないと決意した。





 

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