5 壁
また、あの夢だ。
「…お前は、俺から離れない…?」
あなたは切なそうな声で話しかけた。
「大丈夫ですよ、私はそばにいます」
「…よかった…こっちに、来て」
「はい…」
と向かおうとしたが透明な壁…、ガラスが私と彼を別の世界にしている。
何これ…
「…またな、名前」
切なそうな声で言うあなた。待って、あなたは誰、名前だけでも教えて!お願い!
「…!」
パッと目を覚ました。これ何回目…。でも、いつもと違った。壁…ガラス?みたいなものがあった。何あれ。
「…わからないよ…」
静かな部屋の中に響く声と、薄ら暗い部屋に響くしん…という音。
「やはり、接触したな」
「はぁ…俺たちの力でこれですぜ?九尾の旦那ヤベェ」
名前の部屋が見れる所の木の上に烏天狗の土方と鎌鼬の沖田。土方と沖田の妖力で作り出した壁だった。これ以上彼女、名前が向こう側に行かないようにだ。
「なにがヤベェって?」
「げ!九尾の狐!」
「なんだよその呼び方やめて来んない?土方くぅん」
土方と沖田がいる木の上にふわりと座る銀時。その髪は月の薄灯でも輝くほど綺麗だった。
「もうすぐでこちら側に来れそうだったのに」
「お前…あいつがこちら側に来たらどうなるか知ってんのかよ」
「うるせぇな…」
「…こちら側に来たら、人間の世界から姿を消してしまう事と…お前の妖力に当てられてすぐ死ぬことも…」
「…知ってるよ」
「だったら!」
「それでも、好きなんだよ…」
切ない声で呟く銀時の表情は、月の影になって2人からは見えないが想像がついた。あの憎たらしい表情を浮かべれ油揚げを頬張るあいつの表情とは違うことが。
「九尾の旦那…」
ザァ!と風が吹くと銀時はいなくなっていた。残された土方、沖田は銀時が言った言葉を思い出す。
「…恋は盲目、なんてよく言うぜ」
はぁ…とため息は冬の白い吐息のなって空に消えた。
*
「はぁ……」
夢の中でもなんか心がしんどい。そんなモヤモヤを抱えながらスーパーへ向かった。
油揚げの味噌汁を飲もうと手に取ると、自分の他にも手が伸ばされた。
「すみませ、…て神主さん」
「あ、こんちわ、名字さん。それと、俺のこと坂田さんって呼んでください」
「あ、えぇと…」
「あなたはうちの神社によく来てくれてるじゃないですか。だからほら」
「…では、坂田さん…えぇと、油揚げどうぞ」
「ありがとう」
「なんか変な感じですね、坂田さんがスーパーなんて」
「俺だって一応料理しますよ」
そう言う彼のカゴの中は豆腐や肉、調味料など普通のものが入っていた。銀さんと話しながらスーパーのものを買う。あの中国人ぽい女の子、神楽ちゃんと言うらしい。その子のことやほかに巫女見習いの新八という男の子の話を聞いた。それといつも神社に来てくれるから敬語も無しにしようと言われた。
これから付き合いもあるしとお断りしたが、かなりしゅん…と落ち込んでいたのでお言葉に甘えてそれにした。
「では、また今度いくね、坂田さん」
「うん、待ってるわ」
ひらひらと手を振る坂田さんと私も手を振りマンションに戻る。
なんか心が軽くなった気がする。そうだ、所詮夢の話、気にすることはないんだ!と考え、今日の夜ご飯のレシピを頭に思い浮かべる。
*
ぴちゃん、ぴちゃん、と音がする。
ズルズル…と重い体を引きずり社を訪れる男が1人。風とともに薄いベールのようなものが揺れる。
「何しに来た高杉ィ」
「たまにはこの姿にならなきゃなァ」
「お前…毒吐くことしかできねェんだから考えろよ。蛟の高杉くん」
「お前なんかに毒吐くかよ」
持ってるキセルを吸いこみ、ふーと出す。
「お前、人間に肩入れしてるらしいな」
「あぁ?」
「わかってんだろうな」
「うるせェな、どいつもこいつも」
「短い命になるぞ」
「…わかってる」
「そうかよ」
そういうと狐が祀ってある、もとい九尾の狐、銀時を祀ってある神社に向かった。
「…わかってんだよ…」
好きだからこそ、少しの時だけそばにいたい、側に居させたいと考える銀時の想いを知ってか知らずか、ポツポツと雨が降る。
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