1 油揚げ


「名前、ここにはお狐様がいるんだよ。だからこうしてお揚げさんを置いておくのさ」

「おきつねさま?」

「そうだよ、いつでも名前を見守ってほしいってお願いしてあるからね」

「名前のことみまもってくれてるの?」

「そうだよ、だから名前も、大人になってもお揚げさんをあげてね」

「わかった!おばあちゃん!」

ピピピ…と鳴り響くアラーム音。眠りから目が覚めると寒さに再び布団に戻ってしまう。

「はぁ…さむ…」

カレンダーに目を向けると花丸がついていた。今日はそこへ行かなくてはいけない。

「…よし!」

布団からでて寒さに身を震わせながらヒーターを付け身支度を整える。

懐かしい夢を見た、祖母と居るときの夢だった。祖母と私は母が仕事でいない時に私の面倒を見てくれた人で、とても優しい人だった。そしていつも、神社に行きお狐様に油揚げをあげていた。

祖母が去年亡くなり、その役目は私に回ってきたのだ。晩年「あの神社には本当にお狐様がいるんだよ。だから半年に一度でもいい、お願いだから油揚げをあげておくれ」と言われた。母と父は仕事で地方へ行ってしまっているので私がやるわけだ。

そこまで祖母がこだわるのは、なんでも神社で遊んでいたら、私がいなくなってしまったらしい。祖母は神社の主、お狐様に頼み込んだそうだ。そうしたら後ろの林で見つかったという…なんとも信じられない話だ。その時私は記憶がなく、眠ってしまっていた。

「油揚げよし、えーと…あとはもうないよね」

神社に油揚げをあげた後スーパーへ買い物へ行こう、と決めた家を出た。



マンションから徒歩15分、本当に近くにその神社がある。寒い息を吐きながら向かう。
もうその神社は来る人がまばらだったが、一応管理はされているらしい。いつも綺麗だった。

「こんにちわ、お狐様」

そう言って油揚げをあげる。それだけなのだ。それだけなのに、ここに来ると安心する。

「…ここに人なんて珍しいアルネ!」

「はい!」

後ろを振り返ると巫女姿の女の子がいた。…いや若い…まだ10代?なのかな…。家のお手伝いとかかな。

「こんにちわ…そんな珍しいのですか?」

「珍しいアル!それにちゃんと油揚げをあげるなんて!」

「そうですか…?昔お世話になったので…」

「…そうアルか…。いつもありがとうネ、おねぇさん」

「いえ…!こちらこそいつもこの神社を綺麗にありがとうございます」

「これが私の仕事アル!」

中国の方、なのかな…?とても可愛らしい女の子だ。
その子に挨拶をして神社を出た。あの神社に来て初めて会ったけど、次会う時も会えるかな…。

彼女を見送った女の子は「はぁ…銀ちゃんに言われてこれやったけどめんどくさいアル…」と呟くと二又の尻尾を出した。 



 

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