「とりあえず様子を見ようか、バーン、俺何か作って来るからガゼル見てて」
「は?」
グランが言ったことに気が付いたのは部屋に取り残された後だった。しまった、ガゼルと二人きりだ。でも本人は静かにベッドで眠っているから、少し気が楽になった。
よく見れば目元にはうっすらと隈が出来ていて、寝ていないのか、俺は睡眠不足と見た。
「う……」
ガゼルがぴくりと眉を寄せて声をあげるから俺は慌てて離れた。今更気付いたけど、こんなに近い距離でガゼルの顔を凝視していたのか、なんとも恥ずかしい。
離していた目線をまたガゼルに向ければ、苦しそうにうわごとを言っていた。耳を傾けたら、違う、とガゼルが言う。一体なんの夢をみているのか、苦しそうにしているから悪夢なのか、俺はガゼルを起こしてやろうか迷った。
「……う、ぅう」
「おいガゼル、大丈夫かよ」
近くに掛かっていたタオルで流れる汗を拭いてやれば、ガゼルの閉じていた瞳が俺を映した。潤む瞳は確かに涙を溜めていた。
「……わ、私は、本当に、違うんだ」
「ああ?」
「違うんだ、違う、違う」
「だから何が」
「私が貴様を慕いているなど、あり得ない」
「俺が好きってことか?」
「っ……だから、違うと言っている!」
枕に顔を埋めてガゼルはぐずぐずと泣き出した。違う、とかあり得ない、とか呟きながら、失礼な奴だと思った。それに素直じゃないことも理解した。俺は溜め息をつくとガゼルの頭に手を置いた。
あやすようにぽんぽんと撫でてやれば、ガゼルの小言は止まり、しゃくり上げるだけで終わった。
「私、は、」
「ああ」
「認めん」
「……あっそう」
どんだけプライドが高いんだろうか、俺は脱力してベッドに顔を置いた。そしたらガゼルは顔を真っ赤にして寄るな、とだけ言い背中を向けた。変な奴だなと思い目を瞑った。



グラン様に呼ばれて部屋に来たのはいいけれど、あの人はこれを図ってやったのか、なかなか食えない方だ。
目の前にはベッドに突っ伏して眠るバーン様と枕に抱き付いて眠るガゼル様。少し羨ましく思うも、グラン様にもお礼を言いたくなりそうだった。ガゼル様の寝顔が見れたんだ。でも二人きりだった状態なのが気になってしまい、結局は善し悪しだ。
「ん、……ね」
「ガゼル様?気分はどうですか?」
「バーン」
俺を見て放ったその言葉とその表情は、とても愛くるしかった。名前が俺ではないことに、酷く嫉妬した。

俺がガゼル様に覆いかぶさる3秒前。



I was cheated by honeyed words
甘い言葉にだまされた。


end
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