優しく頬を撫でられて柔かく、暖かく私を抱き締める。赤いあの男を想像したけど、重い瞼を開ければ見慣れた顔だが、雰囲気は全くの別人だった。
「風丸……?」
すると目の前にいた風丸は小さく頷いて私の額に唇を落とした。まるでオーラの違う風丸だけど、私は会えて嬉しかった。擦り寄ると私の頭を撫でてくれる。
「これは?」
「風丸が私にくれた物だよ」
私の我儘で取ってくれたテディベア、風丸に見せると眉を寄せた。
「……弱い時の俺か」
聞き返す前に奪い獲られて床に投げられた。私はそれを取りに行こうとしたけど風丸が離してくれなかった。
「風丸!何をするんだ!」
「弱い俺の物など必要ない。またあげるよ、風介」
「わ、私は……あれでいいのに」
優しく微笑まれて言い返せなくなった。まるで闇に落ちたような風丸の瞳は黒く濁っていた。私はあの優しい瞳が好きだったのに。
「ガゼル?」
箒を持ってバーンが部屋に戻って来た。扉の前に投げ出されたぬいぐるみを拾うと、バーンは私と風丸を見て驚いていた。
「おまえ、あの時の?」
「俺は強くなった。自分の持っている限界を越えたんだ。おまえよりも、グランよりも強くなった」
「ガゼルを離せ」
「それは出来ない。風介は我らダークエンペラーズと共に戦う」
私達と似たようなボールを取り出すと、風丸は私をより強く抱き締めた。周りが光りだし、バーンも見えなくなる。私の伸ばした手は、バーンには届かなかった。



「明日、エイリア学園と戦おう」
俺がそう言えば、風介は嬉しそうに顔をほてらせた。風介を連れ去って帰った日、研崎に叱られた。風介はかなりのお偉いさんだったらしいが、研崎からもらった新しいエイリア石で風介は変わった。
俺にだけ甘えて、俺にだけしか従わない。研崎のおかげで風介の余分な記憶を抹消することが出来た。
「ふふ、どんな奴らか楽しみだよ」
「ああ、そうだな」
艶やかに笑う風介に、俺には罪悪感の欠片もなかった。



「ガゼル!」
俺はボールと共に現れたガゼルに駆け寄った。触れた肩を払われ、ガゼルは風丸へと腕を絡めた。
「誰だ貴様は、私は風介、ガゼルではない。人違いだ」
「な、……」
地面にころりと落としてしまったテディベアを風介は拾い上げた。それを見て悲しそうに顔を歪めたガゼルがいた。
「なんだこれは?悲しい物だ……」
ガゼルの頬に流される雫を風丸が優しく拭き取った。するとガゼルは見せたこともないような笑顔を風丸に見せる。

「さあ、始めよう」

試合開始のホイッスルが鳴ってしまった。


Forsan et haec olim meminisse iuvabit
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