途中でぶつかった人に謝ってまっすぐに人込みを通る。風介は俯いたままで前を見ていなかった。あ、と声を盛らした風介は俺の服を引っ張った。俺が振り返ったら風介はあれ、とゲームセンターを指差す。
「どうした?何かあったのか?」
「ん」
あれが欲しい、と呟いた先はぬいぐるみだった。
え、……可愛いな風介。
びっくりしたけど俺は苦笑いで懐にある財布を取って持ち合わせを確認した。まあ、足りるだろう。
風介の腕を引いてユーフォーキャッチャーの前に立つと小銭を入れた。どれが欲しいのかと聞いたらあれ、と指差す。
テディベアか、やっぱり風介可愛いなあと考えながらボタンを押す。風介はテディベアから目を離さなかった。俺も神経を集中させて動かすと、見事に空振りした。
風介が無表情で俺を見るから仕方なく俺はまた小銭を入れた。胸にあるリボンに掛かりテディベアを釣れた。
「やった!」
「ふふ、取れた君が喜んでるね」
「まあね。はい、風介」
テディベアを渡してあげれば風介はぱっと明るくなって手に取った。本当に欲しかったみたいだから取れてよかった。初めてみた風介の笑顔に俺も嬉しくなった。
「あ、ありが、と……風丸」
「ああ、どういたしまして」
腕の中のテディベアを大切に抱き締めて風介は俺を見上げた。それが可愛いくて俺は頭を撫でてあげた。風介も嬉しそうに目を細めた。

「嬉しそーじゃねえかガゼル」

ある声に風介の身体がビクリと震えた。あれ、さっき商店街でぶつかった子だ。隣には……

「お前、……ヒロト」

「あ、円堂くんのチームにいた子だよね。ガゼルがお世話になりました」
「ガゼル?風介のことか?」
「か、かざ、まる……あの」
しどろもどろになる風介は、何か知られちゃいけないような感じで今にも泣きそうで、俺の服を掴んだ。
「へーやっぱりお前言ってなかったんだ。ダイヤモンドダストのリーダー、ガゼル様ですって」
聞いたことのないチーム名、それに何故ガイアであるグランがここにいるのか、何故風介と知り合いのように話して風介のことをガゼルという名で呼ぶのかは、俺の頭の中でぐるぐると回った。分かった、ここまでくれば俺だって理解出来る。
風介は不安そうに俺を見上げる。これを知ってて俺に話し掛けたのか、でも風介はあの時泣いていた。帰るのがいやそうだった。
それでいいじゃないか、あの時出会った風介に紛れもなく惹かれたんだ。
「ごめん、かざま、る」
「泣くなよ風介、な?」
「ん……」
俺は風介を優しく抱き締めてあげた。ヒロトの隣にいる赤髪がぴくりと眉を上げる。それでも俺は、風介を離さなかった。


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