べたな猫耳



気付いたら丸くなって眠っていた。毛布を取って肌寒さを感じながら身体を起こせばまた暖かい陽気に眠たくなる。先程の練習が身体に応えたのだろうか、目をこすっても眠気は覚めない。
これじゃ埒が明かないから洗面所へ直行した。寝呆けた顔に水をかぶりタオルで拭く。今日もぴよぴよと跳ねる自分の寝癖に無関心になりながら直す気さえしない。
急に垂れていた髪が跳ねた。
「え、」
自分の髪色とは違う真っ白な物が私の頭の上でひよひよと揺れる。
「何、コレ……」
眉間に皺を寄せて鏡を凝視した。何だこれは、白い耳か、訳が分からん。
きっとグランかバーンの仕業だろう。私は構わずそれを引っ張った。痛い、痛かった。
わなわなと肩が震え、怒りが込み上げて来た。鏡に移る自分は私からしてみれば非常に腹の立つ格好だった。何だコイツは、誰だ。
私から見ても愛くるしいと言う言葉が頭に過ってしまう。いっそのこと鏡を割ってやろうか。

「一体にゃんなんだ」


──!?


「にゅあああああああ!!!?」


しまった、つい大声を出してしまった。口を急いで塞いだけど部屋の外ではバタバタと私の部屋に向かって足音を立てる者もいる。
ヤバイ、これは非常に危険な状態だ。素早く布団にくるまって頭まで隠す。
ノックも無しにドアが開けられて私の頭にヒットする。跳ね返された私は落ちた布団に飛び付いた。
「どうしたんですかガゼル様!?」
部屋に入って来ようとするアイキューやクララに手を出して部屋の侵入を防いだ。
そうだ、入って来るな。そのまま私の部屋から去ってくれ。
犬を追い出すように手を払い除けるとメンバー達はおずおずと部屋から下がる。
「本当に大丈夫ですか?ガゼル様」
私は力強く何度も頷いた。心配そうに眉を下げるアイシーにも必死に頷いてあっちへ行けと手を振る。
絶対に私は口を開かない。開けばどうなるか目に見えている。笑い種になるに決まっているんだ。

「お?何してんだお前ら」

「!?」

私は半開きのドアを勢いよく閉めた。身体中を駆け巡る私の危険信号は赤を指している。あんな間抜けな奴にこの姿を晒す訳がないだろう。
危険は回避したと安心してドアにもたれるとドアが反対から開けられて壁に身体を打ち付けられた。
「い゛……」
ズルズルと壁に這いながら部屋に入って来た奴目がけてつい一喝してしまった。
「貴様、にゃにを……!」
「お?」
「!?」
素早く口を塞ぐとやはり目の前にはバーン。私と目を合わせてきょとんとしている。

はっ、しまった!

布団を被ってバーンをおそるおそる見上げれば、まだ私を見たままで固まっていた。
「出、て、け」
「……お前何それ?尻尾?」
「しっ、ぽ?」
ふにゃん、と生き物のように揺れる尻尾は私の尻に確実に付いている。私はそう悟った。
「バーン様、ガゼル様の様子は……」
「あーちょっと待っとけ」
顔を覗かせたクララにバーンは見事に足だけでドアを閉めた。
「俺がいいって言うまで開けんなよ」
部屋の外では私のメンバー達が騒ついてるようで、私はもう冷や汗でいっぱいだった。見付かったらどうしようどうしようどうしよう。
布団に身体を包んで頭を抱えていたらバーンに布団を剥ぎ取られた。
「これがあのダイヤモンドダストのガゼルサマねー」
「見るに……な」
「……お前のクセに結構可愛いな」
顔を上げれば恥ずかしそうに顔を背けるバーンがいた。


20100316