ガゼルくんが猫を飼います
ふさふさしていて、柔らかい。私が触ったら逆上したように爪で引っ掻かれた。その猫は私をギラギラと睨みながら警戒し、威嚇していた。それが何故だか虚しい気持ちになる。 「お前も……」 この私を否定するのか。負けを背負った私なんて必要ないのか、引っ掻かれた傷がじわじわと痛みだした。 「……っふ」 気付いたら私は泣き虫になっていたようで、ぼろぼろと泣いていた。怖い、必要とされないのがこんなにも寂しい。声を押し殺していたら足にすり付くように猫が寄って来た。 泣くことを辞めて猫を拾い上げる。少し暴れたけれどすぐにおとなしくなった。 暖かいぬくもりが欲しくて、猫を抱き締めた。猫は、凄く熱かった。 「あれ、ガゼル、猫を飼うのかい?」 「拾っただけだ」 「似合ってるよ。そのツーショット」 廊下ですれ違ったグランは私と猫を交互に見て、意外そうに感心していた。私の腕の中に居た猫はグランを警戒していたようだ。 「ああ、そう言えばバーンが君を探していたよ」 「……バーンが?」 「多分今は部屋に戻ってると思うけどね。じゃ」 そう言ってグランは私に背を向けて廊下を去った。 「バーン……か」 静かになった廊下に、私の言葉がぽつりと呟かれた。猫も私を見上げる。きっと今私は情けない顔になってるに違いない。猫が鳴いた。私はそれに応えるように頭を撫でてあげた。 「また否定されそうで、怖いんだ……」 緊張をほぐすように猫を抱き締めながらバーンの部屋までやって来た。軽く深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。ゆっくりと手を伸ばしてノックする。中からの返事はなかった。 「バーン……あの」 中からは物音も、バーンの返事もない。 「グランに言われて……来たんだが」 前までの私ならこんなにおどおどしなかったのに、一体私は何処まで堕ちて行くのか、弱気になってしまう。 「……バーン……」 きゅ、と猫に抱き付いた。私はバーンにまで否定されてしまった。いや、前々から私はバーンに必要となんかされていなかったんだ。自分で考えていて虚しくなる。 「あっ」 スルリと猫が私の手から離れて行った。猫は部屋のドアノブに向かってジャンプしていて、理解した私はドアノブを引いてあげた。 無断でバーンの部屋に入ってしまった。少しの罪悪感が私にしみる。猫が私を呼ぶように鳴くから、部屋のドアを閉めた。部屋中に香るのはバーンの匂い。なんだか居心地が悪い。 つっ立っていたらまた猫に呼ばれる。勝手に人のベッドに乗っていいのか不安になりながら腰を下ろした。 猫は私の膝の上に乗り、私も頭を撫でてあげた。なんだか私に懐いたみたいで気分がよかった。 「……出て行った方がいいかな」 ぽつり呟くと、また猫が反応した。私は猫を持ち上げて、猫と目を合わせる。 「……負けちゃったんだ」 猫は暴れなかった。だから私はそのまま猫を抱いてベッドに背中を預けた。 「もう誰も、私を必要とはしない。利用価値が無くなったんだ」 シーツに私の涙が染みていった。猫を強く抱き締めて、私は泣き疲れて目を閉じてしまった。 ぺろり、最後に頬が舐められた感触がした。
20100315
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