バーンの部屋に向かう途中、ガゼル様に会った。通り過ぎる前に軽く会釈をして、俺はまた廊下を歩く。チラリと目線だけを向けてガゼル様は歩いて行った。

ビタン

振り返ればガゼル様が倒れていた。俺は慌てて駆けてガゼル様を支えると、はあはあと肩で息をしていた。熱なのか、額に手を添えるとビクリと身体が動いた。同時に瞑っていた目が開けられ、瞳に俺をとらえた。
「ぁ……まさか」
「ヒートです。ガゼル様、体調が悪いのですか?」
「違、グラン」
「グラン様がどうされました?」
「アイ、ツ……ふっ」
いきなり泣き出すガゼル様に俺は更に困惑した。しかも初めて見る、ガゼル様の泣き顔は幼い。
強い力で俺の服を掴むと、身体を震わした。俺は心配になって部屋まで送って行こうと抱き抱えた。
「ぃやああっ!」
否定の言葉かと思ったら逆に俺に抱き付くガゼル様。ふるふると震えて、涙目になり俺を見る。
「や、……降ろせ」
「ダメですよガゼル様、熱があるんですから」
「ああぁッ、だっだから、私に触るな!」
「で、ですが……」
抱き付いて離れないのはガゼル様じゃありませんか、とつくづく思い、仕方ないので無視を決めた。
「あっ、あっ、はな、せ……」
「大丈夫ですか?」
「ひぅ……せ、足を、触るな」
「足を?す、すみません」
「ふあああァッ」
足から手を離して太股で支えようとしたらガゼル様はまた暴れだした。
「ちょ、ちょっとガゼル様」
「ん、ぁ……ッ」
脚の痙攣が早く、相当重症なのだろうかと部屋に向かって俺は走った。しかしガゼル様が走るなと耳元で騒ぐのでゆっくり歩くことにした。
「はあ、はあ……ん」
それにしてもガゼル様は熱を出したらこんなにもいやらしく変わるなんて知らなかった。俺じゃなくてグラン様やバーンだったらきっと理性が切れているだろう。男だとしてもこの反応は反則過ぎる。
「あ、いたいたガゼル」
「グラン様」
「ヒートお疲れさま、まさか君が連れてたんだね」
「? はい。ガゼル様は熱が出ているようなので早く部屋に戻りチームの誰かに看病を……」
「大丈夫、看病なら僕に任せて」
「分かりました」
おとなしくガゼル様を渡そうとしたら、ガゼル様は俺の首に巻き付いて離れなかった。これは困った。
「私は、嫌だ!ヒート、……お前で、いい」
「そう?じゃあヒートに頼もうかな?」
「グラ、ン、貴様……」
「もしかして気付いちゃった?ガゼル」
グラン様とガゼル様の会話が理解出来ない中、俺はただ必死にしがみ付くガゼル様を支えていた。
「私になんの恨みが……!」
「恨みなんて無いよ。ただやってみたかっただけ」
「この私をっ、実験台に、だと……ッ」
「でも、良い気分だろう?」
「さ、いあくだっ!」
「ヒート、少し手伝ってくれるかな?」
「え?はい」
ガゼル様の邪険になんの顔色も変えず、グラン様はガゼル様の足を取った。嫌に震えたガゼル様は、俺にしがみ付き、グラン様を蹴ろうとして脚をばたつかせる。
俺にはグラン様が何をしようとしているのか分からなかったけど、黙って見ていた。
「ほらガゼル、見てごらん」
「!?」
「君のココはこんなに」
「いっやああぁああァッ!」
「元気だよ」
「やめ、やめろっ!痛い、痛い、うああっ!」

目を疑った。

「ひくっ……うぅっふえぇ」
「グ、グラン様……何故」
「僕がガゼルに、媚薬を盛ったんだ」

目の前には、力強くガゼル様のを掴むグラン様の姿。まるで玩具で遊ぶように、グラン様は目を細めていた。



20100314