私の部屋にやって来たグランは挨拶もなしに唐突に言ってきた。私は読んでいた本を閉じて溜め息をついた。
「どうしたんだい、いきなり」
「だからね、今日はエイプリルフール、嘘をついてもいい日なんだよ」
へえ、と軽く相槌を打って私はまた本を開いた。グランの言っていることが馬鹿らしくて付き合ってられないからだ。
グランは私の反応を予想していたのか文句は言わず部屋に入って扉を閉めた。
「だからガゼルにとっては凄くラッキーな日だと思うんだ!ね?バーンに告白しようよ」
「……なんのこと」
「バーンが好きなら好きって言わないと」
「な、なんのことだ!」
咄嗟に手にある本をグランに投げるとグランは軽々と避けた。私を見てニヤニヤしてにやけて、この変態め。私が睨むとグランは微笑んだ。
「ねえガゼル、今日はエイプリルフール。だから言ったことは全部意味が反対になるんだ」
「ふん、そうか、なら私は貴様が好きだ」
「……うわあ俺ガゼルにコクられちゃった!」
「反対の意味なのだろう?」
「あーうん、まあ」
怪しく目を泳がせたグランにぴくりと眉が上がった。グランの奴、何か企んでいるんだろう。生憎私には分かりきっている。
「あっバーン!こっちこっち!」
部屋から頭だけを出してグランは大声をあげた。私が制止する暇もなくバーンはすぐに入って来てしまった。
内心酷く焦りながら私は棚から本を取ってグラン達に背を向けた。でもグランにはバレバレだったようで、私は悔しくて髪を引っ張った。
「おまえら二人してなにやってんだ?」
「え、あ、う……」
「ほらガゼル!今だよ今だよ!」
「私は、ば、バーン……が、き、嫌いだ!」
ようやく伝えられた想いに私の心臓はバクバクと音を立てた。顔が真っ赤だろうと私は頬に手を当てながらバーンを見上げた。
不愉快に顔を歪めたバーンと目が合い、私は恥ずかしくてすぐに逸らした。
「……いや今更だろ、嫌いって言われても」
「だ、だからっ!私はバーンが嫌いだっ!ずっと……前から」
最後の方が弱々しくなってしまった。バーンは変わらずに私を不思議そうな目で見ていた。
「バーン、実はね、ガゼルに今日はエイプリルフールの日って教えてあげたんだ」
「え?それって昨日だろ?」
バーンの言葉で我に帰った私はすぐに騙されたと言うことに気付いた。あれだけグランは怪しいと呑んでいたのに、私は引っ掛かってしまった。
「ガゼルはね、君に好きって言いたかったんだよ」
頭が爆発しそうで、私は恥ずかしさのあまりグランを蹴り上げた。



20100402
本当はガゼルに乙女顔ですきすき言わせたかったのに…文才落ちた。