チョコねたで晴風+ヒロト



今日は地球人で言うバレンタインデーらしい。既に私の手にもいくつか渡っていた。悪い気はしない、私は甘いのが好きだから。
包みを取って箱を開ける。中にはチョコレートと言う物が入っていた。口に含んで堪能すれば甘い味がたくさん広がる。
ふと騒がしい廊下に目をやれば、バーンもチョコを渡されていた。しかしアイツは甘い物は嫌いだから断るだろう。
「あーサンキュ」
「……?」
照れ臭そうに頭を掻いてバーンは受け取っていた。少しだけ手が止まった。
(なんだ、チョコは食べれるのか)
そうしてまた包みを開けて次のチョコに手を付ける。私を見る女子達は自分のチョコを食べてもらっているからか、幾分機嫌が良いと見れる。
「風介くん、私達のチョコをあんなに美味しそうに……」
「甘党な風介くん、可愛い〜!」
きゃんきゃんと吠える女子の言葉に、俺は耳を傾けた。女子が見る視線は教室に居る風介だ。
それにしても、よくあんな甘いチョコを食べられるものだ。俺なら吐き出すに決まってる。
「晴矢」
俺と目が合った風介が席を立った。手に包みを持って俺の目の前に来てそれを差し出す。
まさかチョコだろうか、でも風介は俺が甘いのは嫌いだと知ってる筈だ。
「ん、……これ」
早く受け取れと包みを押し出された。
「チョコか?」
「……甘さは控えたつもりだ」
「お、おう」
気になって包みを剥がせばシンプルな箱、中身のチョコは……形が複雑だった。黙っていたら風介に足を踏まれる。
「控えたぞ」
「わ、分かった」
足を踏まれながら俺は風介のチョコをつまんで食べた。
ああ、これは……不味い。
「ぶぉあッ!なんだこの味、塩っぱ!塩か!?」
「だ、だから……甘さを控えたと」
「それで砂糖と塩を?」
目を泳がす風介に俺は呆れた。仕方ないから俺は残りのチョコをまとめて口に入れて呑み込んだ。風介もそれを見て驚いたのか足を退かした。
「お、おい、晴矢何を」
「うおぇっ……」
「そんなに不味いなら食べるな!」
「っるせ、俺の勝手だ」

あの風介が俺に作ってくるなんて奇跡に近いのに──

「食べなきゃ勿体ねぇだろ」
「……晴矢」

「風介ぇーっ!!」
教室の扉を叩きつけてヒロトが入って来た。手には俺と同じ包み、まさか。
「どうして塩を入れたんだい?」
「晴矢用に作ったからだ」
「僕は晴矢と違って甘い物くらい食べれるよ?」
「そうだったのか……?」

俺だけじゃないけど、俺の為に作ったチョコ。なんだか気分が良かった。



20100314