いきなり部屋に入って来たグランはガゼルを抱えていた。それに俺はぎょっとして食べていたポテトチップスを落とした。
何だ、どうしたんだと聞けばグランは一緒にケーキを作ろう!と笑顔で言ってきた。違う、俺はお前の手の中にある奴のことを聞いたつもりなんだけど。
「俺の為に、円堂くんの為に手伝って!」
「……断っても無駄みたいだよ。私も無理矢理だ」
「なんだ、お前生きてたんだ」
失礼だね、と睨まれた。あんなにうなだれたガゼルを見れば誰だって不審がるだろう。俺も仕方なく腰を上げるとガゼルを抱えるグランのもとへ行った。笑顔で気分をよくするグランを横目で見ながら俺達は廊下を歩いた。
「なあ、ちょっとガゼル貸して。俺が持つ」
「何訳の分からないこと言ってるの、ていうかグラン離して」
「うんいいよ。逃げるからしっかり持っててね、はい」
ガゼルを無視したグランは俺にガゼルを差し出す。大層な目付きで俺を睨むとガゼルは触るな、と小言を言う。俺はそれを無視してガゼルを抱えた。うん、やっぱり軽かった。
「お前軽い」
「うっうるさい!」
暴れるガゼルを押さえながら廊下を歩くとグランは着いたよと言ってある扉を開いた。
おお、調理室か。中に入るとグランはすぐにエプロンを付けて俺達にも赤と青のエプロンを渡す。おとなしくなったガゼルも渋々エプロンを着る。俺も着て後ろで紐を縛ると苦戦しているガゼルが目に入った。見ていたら何だ、と睨まれる。ああなるほどこいつ不器用か。後ろに回って貸せ、と言うと黙り込んでおろおろしていた。なんか小動物みてーだな。
「ほら早く、早く」
急かすグランに俺達は隣に並ぶと既にグランはスポンジ作りに取り組んでいた。じゃあ、と俺は生クリームを作ろうと卵を手に取るとガゼルに奪われた。私がやる、と言ってボウルにカン、と当てて中身の卵を殻ごとボウルの中に入れた。
おい、何してんだ。隣でガゼルが舌打ちをしてまた卵をボウルに当てたら殻と黄身が崩れてボウルに出される。またガゼルが舌打ちをした。
「やってられるか!!」
卵をまとめて床に叩きつけるとガゼルは卵を踏み付けた。おおおいおいおい。落ち着け、と肩を叩くと払われる。
こいつ不器用にも程がある。既にスポンジは焼けてグランはフルーツを分けている。仕方なく俺が卵を割ってボウルに入れると今度は俺の足を踏み付けた。見せ付けるな、と怒鳴られた。いや見せ付けてねえよ当て付けもいいところだ。


20100321
料理でキレるガゼルを書くのが楽しかった。また書く。