ちまちま、何だこいつ。
顔をしかめて見ていたらギロリと睨まれる。いや、口に生クリーム付いてるんだけど。 「何だじろじろと」 「あー」 「何だ」 食堂で面と向かって食べるのは珍しいというか気まずいというか。目を泳がせて手にあるフォークをぶらぶらさせる。すぐに空気がピリピリするからこいつと居るのは嫌なんだ。 目を向ければショートケーキをつついて口元を緩めている。あれ、なんて言うか、こいつとケーキって合うような合わないような。ふんわりとしたイメージだ。あの凍てつく闇の雰囲気さえもしない。 「あの、ガゼル様」 隣でうどんを食べていたヒートが話し掛ける。何やってんだよヒートこいつに話し掛けるなんて凍てつくぞ。 「どうした?」 首を傾げて目を丸める。フォークを口に含んだままで唇をつつく。それを見て思わず手が止まった。 「甘い物、お好きなんですか?」 行儀よくテーブルに箸を置いて笑い掛ける。俺は会話に耳を立てて頬杖を付いていた。何だよヒート、もじもじして女みてーだぞ。止まっていた手を動かしてハンバーグを刺した。ガゼルはああ、と無愛想に呟く。隣に居るヒートはポケットをまさぐるとテーブルにコロリと紙包みを置いてそれを手のひらで見せた。 「それは……?」 「ミルクキャラメルです。良かったら要りますか?」 「う、うん。もらってあげるよ」 差し出したヒートの手を嬉しそうに伸ばす。何だよその顔、俺は初めて見るぞ。 手が勝手に動いてヒートの手のひらにあるお菓子を取り上げた。ヒートとガゼルは唖然としていた。俺だって分かるか、身体が勝手に動いたんだ。 「なっ、バーン!それは私が」 紙包みを取ってキャラメルを口に入れた。ガゼルが凄い残念そうな顔をして眉を垂れる。しかも泣きそうに震えて俺を睨む。 甘い、口にミルクの濃厚な味とキャラメルの甘ったる香りがする。俺、こんな味より焼けるようなキムチが食べたい。口を動かしているとガゼルが突っ掛かってきた。 「それは私がヒートからもらう筈だったんだぞ」 「知らねーよ」 「貴様っ!」 「そんなに欲しいならやるよ」 俺の胸ぐらを掴み掛かるから顔を近付けて口を塞いでやった。離れないよう頭に手を添えて舌でキャラメルをガゼルの口内に押し出した。 「ふっ……く」 キャラメルが溶けるまで濃厚なキスを続けるとガゼルからは甘い吐息と苦しそうに潤む目。 倒れそうになったから腰を触って支えてやればビクッと肩を震わした。 「決めた。お前俺のモンにする」 幼なじみにやってたまるか、と耳元で囁けば耳まで顔を赤くして俺に爪を立てた。さすがは凍てつく闇様だぜ。
20100320
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