まだまだ発展しないバンガゼ
負けた。結果は引き分けだったけれど同点は敗北と同じだと言われた。もう私に後はない、追放されるのも時間の問題かもしれない。拳を作ってキツく握り締めた。私一人がとり残され、後の二人は愉快に口を開く。 黙れ、黙れ、黙れ! 私が負けるなどありえないことなのだ。唇を噛んで、噛み締めていたら口の中が鉄の味に変わった。 「じゃあ僕は行くよ。円堂くんに会いに行かなきゃいけないからね」 澄ました顔でグランは部屋を出て行った。残されたのは私とバーンのみ、私も部屋を出て行こうと背を向けた。 「ダイヤモンドダストも終わったなァ、ガゼル」 「……」 「なんか言えよ」 「……今日の君はよく口が回る」 「ああ、ライバルが減ったんだからな。次はグランも負けてくれねーかな」
負け、それが私の耳に嫌に響く。
「おい」 私が何も言わずに下りて帰ろうとしていたらバーンがすかさず腹の立つ声を出す。見下ろした言い方、私の癪に障る。 「逃げるのか?つーかお前に逃げ場所なんてあんのか」 「黙れ、私を侮辱するな」 「だから負けるんだよおめーは」 「……!」 身体が酷く身震いしたように跳ねた。目の前に居るバーンは私を睨み、私はただ自分に叩きつけられた言葉に唖然とするしかなかった。負け、私が負け。嫌に震える身体は床に膝を付きそうな勢いだった。 「……わ」 「あ?」 「わた、しは……っ負けてなどいないッ!」 「何言ってんだよ。お前は負けた、グランのお気に入りにな」 「違う!ちが……ひ、ぅ、ひっく……うぅ」 「な!なんで泣いてんだよ、おい!」 私の感情はついに爆発した。どれもこれもバーンの所為、バーンが私に酷いことばかりぶつけるからお得意のプライドはズタズタだ。ついに尻を床に着いて私は泣き出してしまった。
「俺が悪いのか……?」
ああそうだ、貴様だ! 私を見て慌てるバーンを心中毒づいた。 「おい、泣き止め!お前それでもガゼルかよ!」 「うっ、ひく……」 「……マスターランクのキャプテンが墜ちたモンだな」 「!」 ひくっと肩が揺れた。バーンは呆れたように私を見て、溜め息を付く。また私に何かが込み上げて来て、じわりと視界が滲んだ。 「……ーン」 床に手を付いて身体を起こした。 「私は君が、大嫌いだ」 震える拳を握り締めて、私はバーンを睨み付けた。バーンの瞳には、涙を溜めた私の無様な姿があった。
20100314
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