佐久間が怪我をしたと聞いて急いで病院に駆け付けた。源田には佐久間に会わない方がいいと言われたが、俺は佐久間の身に何があったのかを、無事でいるのかをこの目で確かめたくて病院の廊下を走り続けた。途中で看護師に走るなと注意されて俺はこんなにも感情が乱れていることに気付いた。ポーカーフェイスを常に保て、誰にも感情を読み取られるな。俺は深呼吸をしてゆっくりと佐久間の居る病室へと足を運んだ。病室の番号と名前を確認して扉を開いた。外から照らされる太陽の光が眩しい。手をかかげて眩しさに耐え病室の扉を閉めた。
「誰だ」
眩しくてはっきりは見えないが前から佐久間の声が聞こえた。目を凝らせば佐久間は窓の奥にある外を眺めていた。眩しくないのか、そう聞きながら佐久間に近寄れば目は細々としていた。俺はカーテンを掴み太陽の光を遮るように閉めた。佐久間との視線が絡む、こいつの瞳はまるでからっぽのようだった。頭に巻かれた包帯が痛々しい。
「太陽の光を見ていると暖かい気持ちになります……よね」
にこ、と柔らかく笑った佐久間に俺は安心した。さっきは別人に見えたが、やはりいつもの佐久間だった。
「すみません、わざわざお見舞いに来ていただいて……」
「ああ、これでも心配したんだぞ」
「ありがとうございます……、」
何かを言い掛けた佐久間の口が止まった。俺が不思議と見ていたら佐久間は布団をしわが出来るほどに握り締めていた。
「ほんと、すみません……」
「佐久間……?」
「今日は一人にしてください、お願いします」
「……ああ、押し掛けてすまなかった」
少し、いやかなり佐久間の態度が気になるが俺はまた見舞いに来ると言い残し病室を出た。すると病室を出てすぐに源田が仁王立ちをして待っていた。佐久間に何か言われたかと聞かれた。だが別にこれといって何を言われたワケでもない。ただ悲しげに俺を見つめていたのは申し訳なかったのだろう。そこまで深入りはしなかった。源田もそれならいい、と一人納得し俺の肩を軽く叩いた。
「今日は疲れただろ。もう休め、鬼道」
「……そうさせてもらう」
確かに佐久間のことで疲れきってはいた。俺は源田の言葉に頷いてマントを翻した。でも何故か未だに佐久間の苦しんでいるような表情が頭から離れなかった。

「俺はあれでよかったのか……」
「ああ、そうじゃなきゃ鬼道を傷つけることになる」
「きどう……?」
「おまえが誰よりも親しんだ人だ」
「……そうか」
きどう。懐かしい、苦しい、何も思い出せない。目の前に居る奴だって、さっきのきどう、って人も知らない。こいつが俺に言った。今から来るゴーグルの男には誰よりも優しく接し、敬語で話せと。どうでもよかった、ただ俺のこのからっぽな心が少しは埋まるなら。ああ、でも今すごくきどうに会いたい。

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10.07.15
いわゆる記憶喪失
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