熱い奴の唇に捕まって私の頭は朦朧としていた。背中が洗面台に押されて痛いのと、激しい舌使いに私は苦しんでいた。こいつにとってはほんの少しの欲求解消だろうが、私にとっては苦痛でしかない。なんでこんな好いてもいない奴と接吻なんてしなくちゃならないんだ。ああもう、脚がふらついてきた。
「腰、支えてやろーか?」
「っぷぁ……死ね」
「はは、意地張っちゃって。かわいいじゃん」
殺意が芽生えた。思い切り睨んでやったら目を細められてまた口を塞がれる。本当に立てなくなりそうで涙目になっていたら腰に手が回された。しかも手のひらは私のお尻に伸びて、撫でてきた。気持ち悪いくらいぞくぞくして私は腰が抜けた。支えようとしてそばにあった棚に手を伸ばしたら物が落ちただけだった。シャンプーやリンスがガタガタと床に散らばった。
「やっぱ抜けたな、腰」
「うるさい……!」
「我慢出来ねぇんじゃねーの?下、感じてるぜ」
「ああぁあっ」
腰に手を回されたままだからこいつに酷く密着してしまう。しかも私のものを布越しに触ってきた。接吻で乱された身体が感じないわけがなかった。力強く握るから私は痛いのともどかしいのでいっぱいだった。
「もっと聞かせろよ、あんたの声」
「や、やめ、あぅ……」
「風介?物音すごかったけどどうしたのー?」
扉の奥からヒロトの声が聞こえた。だんだん洗面所へと足音が近づいてきて扉がノックされた。そうだ、いっそのことこいつの正体を明かしてやろう。私が扉に手を伸ばそうとしたら後ろ足で扉を塞がれた。入ろうとしてくるヒロトがドアノブをガタガタと動かしていた。
「あれ?開かない……風介ー?」
強い力で簡単に手首を握られて拘束された。またヒロトのノックがされる。私は脚を使って暴れたけど逆に太ももを持ち上げられて恥ずかしい格好にさせられた。
「こんなおいしい場面逃すワケねーだろ」
「ひゃっ!いやあぁあヒロトぉ!!」
「風介!?」
太ももに舌がねっとり付けられて気持ち悪い。するとヒロトが洗面所の扉を壊す勢いでタックルしてきた。いや、すでにもう壊れてしまった。ヒロトは入ってきてすぐ私を抱き締めて大丈夫?と心配そうに見つめてきた。それに黙って頷いてヒロトに抱きついた。
「でも、どうしたの?何かあったの?」
「変な奴に襲われて……」
「え?誰か来たの?」
「だから赤い髪の……あれ?」
気付けば視界にはあいつの姿はなくなっていた。逃げたのか、でもどうやってだ。ヒロトの腕の中で目を丸くしていたら赤い物が見えた。犬だ。私はヒロトから離れて脚を思い切り振りかざし犬を顔面からぶっ飛ばした。ははは、くたばれチューリップ!
「ふ、風介!ダメだよ犬に八つ当たりしちゃ」
「違う!こいつ化けてるんだ!人間なんだよこいつ!」
「落ち着いて風介、ね?」
犬は洗面所から風呂場まで吹っ飛んでいた。私は荒い息のままヒロトに腕を捕まれて押さえられた。後ろでヒロトが熱があるんだよ少し休もう、なんてまるで私がおかしいみたいな言い方だ。頭にきた、悪いのは全部あのクソ犬だ。私はまたあいつに殺意が芽生えた。

---
10.07.19
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -