目を覚ませばヒロトの心配そうな顔が目に入った。ああ、よかった目を覚ましたんだねとヒロトは安堵の息をついた。特別身体がだるいわけでもなかったけど、ヒロトの膝枕なんて初めてだから何故だか新鮮だった。また目を瞑れば私の髪を優しく撫でてくれた。ヒロト、もう少し早く帰ってきてくれたらよかったのに。おかげで酷い夢を見た。
「びっくりしたよ、帰ってきたらまるで誰かに襲われたみたいだったから」
そうだよ襲われたんだ。研崎に騙されたんだ私たちは。ちくしょう、と腹を立てながらまた眠りに落ちようとした時、でろんと頬に熱い何かがへばりつくように這った。触手のような嫌な感触にばちっと私の頭は一瞬で覚醒した。真横にはあの赤い犬が舌を出して尻尾を振っていた。べちゃあ、とまた唾液の混じった舌が私の頬に付けられた。気持ち悪くて嫌な意味で背筋がぞわぞわした。
「近寄るなあぁあ!!!」
クソ犬に思い切り拳を作り殴り飛ばした。後ろでヒロトが驚いていたがそんなもの知るか、私はヒロトに抱きついてクソ犬との距離を取った。グルル、と怒っているのかクソ犬は唸った。それが怖くて更にヒロトの服にしがみついてクソ犬を睨んだ。私の睨みが効いたのかクソ犬はリビングをダッシュで離れた。ふん、ざまあみろと胸を張っていたらヒロトに頭を撫でられた。
「かわいい、風介。犬が怖いなんて知らなかったよ、ごめんね。お世話任せっきりで」
「ぁ、ち、違う……」
「その首も犬に咬まれたんだよね?大丈夫?」
首?と一瞬忘れていたがあの赤いチューリップ頭の獣にやられたことを思い出した。慌てて隠すとヒロトは心配そうに消毒しようか?と気遣ってくれた。それに首を横に振って返事を返した。洗面所に行って顔を洗うついでに首も見ておこうと私はリビングを出た。しかし本当にあの男があのクソ犬なのかは理解出来ない。咬まれた傷を指でなぞり、私は一つため息をついた。ヒロトを説得して明日には研崎に突き返そう。私はあの犬は好かない。そしてあのチューリップ頭の男も。洗面所で顔を洗いタオルで水を拭き取っていたら後ろで閉めていた扉が開いた音がした。私はヒロトだと思い振り返りもせずに顔を拭いていた。けれど鏡に映ったのは違う赤髪だった。ヒロトじゃ、ない。
「よぉ、さっきはよくもやってくれたな」
ぱたん、と奴の背にある唯一の出口が塞がれた。ぺろりとまた舌を舐めて私を獲物のように見る。やはりこいつがあの赤い犬なのだろうか、頬が赤く腫れていた。私がクソ犬に一発お見舞いしたやつだ。ざまあみろと言いたいところだがこの男は明らかに気が立っていた。
「マジ溜まってんだけど、さっきも邪魔が入って喰えなかったし」
「私は餌じゃない、とにかくそこを退け」
使用済みのタオルを投げれば簡単にキャッチされた。こいつはどうやら本当に私を食らいたいらしい。冗談じゃない、と心の中で叫んだ。

--10.07.14
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