目付きはまるで吸血鬼、私は血を吸われそうな悪寒が身体中に回った。べろり、犬特有の長い舌でこいつは自分の唇を舐めて舌なめずりをした。獲物を食らう勢いだ、逃げなきゃと目の前の奴から視線を外しリビングのドアが開いているから振り切って逃げれると思考した時だった。真横の床を思い切り殴られて私は息が詰まった。耳がキンキンする。横目で見れば腕はすぐそこで私の顔のわずか数ミリだった。ぞく、と鳥肌がたった。まさかこのクソ犬、暴力的なのか?冗談じゃない、私はそういうタイプが一番苦手なんだ。それに喧嘩だって慣れてないし腕力なんて自信ない。脚力ならいつでも準備万端だが、いきなりこんな怪力で床を殴られちゃ恐怖心が上回ってしまう。
「逃げねーよな?俺の飼い主だし、最後まで世話しろよ」
「私は飼い主じゃない!」
「はあ?とぼけてんのか?俺はちゃんと覚えてるぜ……?」
私がこいつの首を鷲掴みにして持ち帰ったとこいつは言う。ああ、確かに持ち帰ったのも受け取ったのも私だ、だがそれは犬だから受け取っただけで人間になるなんて聞いてない。むしろこいつが怖い、飼い主に手を上げるクソ犬なんて目の前に居る赤い奴だけだ。
「さぁて、するか」
ニヤニヤと私の上で笑うと胸元のボタンを口に含み歯で食い千切った。ブチブチッと私の服が糸を引きながら鋭い牙に裂かれた。ヤバい、かなりヤバいぞこの状況は。私の目はかなり泳いで力の入らない腕をようやく動かして上に乗るクソ犬を押し返した。力はまだ抜けてないのに、胸板は硬いし、力も強い。体格は同じくらいなのに何故だ。必死に胸板を押していたらクソ犬が牙を見せて笑った。
「確かに犬の姿ならおまえには弾き飛ばされる。けど今は人間だ、弱いワケじゃねえんだぜ?むしろおまえが弱すぎなんだよ」
耳元で囁くとすん、と私の首筋の匂いを嗅ぎながらべろりと舌を這わせた。熱い舌に反応してしまい身体が震える。ちゅう、と吸われたと思ったら牙を立てて噛み付かれた。
「いっ!痛い!いたあぁ……!」
反抗してチューリップのように咲いた髪の毛を引っ張ったらギロリと睨まれて服の中に手を突っ込まれた。ひゃっと力が抜けて声をあげたら首筋から離れて私の口に食い付いてきた。口内ですごいくらいに掻き回されて息継ぎなんてさせてもらえなかった。舌が長いから私の舌は簡単に捕まって絡め取られた。苦しくて咳き込んでも無理矢理顎を掴まれて固定され、胸板を叩いても離してくれなかった。酸欠だ、死ぬ。意識が朦朧として胸板を叩く腕がぱたりと落ちた。ようやく気付いたクソ犬は私から口を離し、だらりと唾液が絡まった銀の糸がたらたらとこぼれ落ちた。涙で難しい視界の中、見えたのは楽しそうに欲求を解消しようとする人間の姿をした犬。赤い尻尾を左右にたくさん振っていた。意識が保たなくて私はついに目を閉じた。

「ただいまー」

最後にヒロトの呑気な声が耳を通った。






--20100706

…続きが見たいとコメントされましたので!
獣人化連載しようかな…w
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