「アイキュー、少し教えてくれないか」
ガゼル様は数学の教科書を持って俺の部屋に入って来た。頭のいいガゼル様でも、わからないものがある時は必ず俺のところに来る。俺にしか出来ないガゼル様のお世話は、確かに嬉しかった。けどこの時間が憂鬱でもあった。シャーペンをカリカリと滑らせて俺の目の前で計算式を解く。その細くて綺麗な指先を目で追った。絡めたい。俺の手と一緒に離れないように繋いで、触れたい、けど。
「ほら、ここの式でつまずくんだ」
「……ああ、そこは」
俺が教科書を覗こうと前に出たらガゼル様は俺を見つめたままで、早く教えてくれ、という眼差しではなかった。でもガゼル様の考えていることは予想が出来た。
「眼鏡、ですか?」
「よくわかったね、さすがアイキュー。眼鏡貸してよ」
俺の返事は無視して手が伸びてきた。眼鏡がするすると俺から離れていく。俺は眼鏡を掴むガゼル様の手首を握った。
「アイキュー?」
「……細い、ですね。ガゼル様は」
「そんなことはない、ちゃんと食べている」
む、と俺を見てガゼル様は眼鏡を奪った。それをまじまじと見ては自分に付けた。結構似合っている。どうかな?と首を傾げてきたので俺は微笑んで似合ってます、と告げた。
「う、でも、目がくらむ」
「あまり長く付けない方がいいですよ」
ガゼル様から眼鏡を取ると目をしぱしぱさせて眉を寄せていた。大丈夫ですかとガゼル様の肩に手を置くと困ったように俺を見上げて笑った。なんだか脆い笑顔な気がした。
「ガゼルーッ!!ここに居たのかよ!」
「え、バーン?」
「探したぜ!」
いきなり入ってきたバーン様はガゼル様の腕を掴んでかっさらうように持ち上げた。いつもそうだ、この人はいきなり俺の目の前に現れていきなりガゼル様の心を奪っていった。すべてがいきなりで、めちゃくちゃで、俺なんか足下にも及ばない。
「す、すまないアイキュー、また来るから」
「あ?何してたんだ?」
「勉強だ!」
二人の世界に入り込む勇気も、隙もない。情けないけど、俺は作り笑いで部屋を出て行く二人を見送った。ガゼル様は気付かないだろう、今のあの方にはバーン様しか見えていない。バーン様も鈍いだろうから、きっと気付かない。だからこそ苦しい、だけど、俺はずっとこのままでいい。ガゼル様が幸せなら。



届かないために悲しいのです






20100627

これはヒートの方が合ってたかな?
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