息苦しいのは、この口か。
晴矢に素直になれない、晴矢だけには素直になりたくない。こんなにも好きなのに、私からの愛の言葉なんてまったくない。晴矢は待っているんだろうか、私からの好きを。晴矢は私に言ってくれる。好きだとか守ってやるとか嬉しくて恥ずかしいことばかりで、でもこれは晴矢からの一方通行な愛し方だった。私も言いたい。
「晴矢」
手にタオルを持ってお疲れさまって言うんだ。ああほら、また身体が勝手に動いた。振り返った晴矢の顔にタオルを投げてしまった。その上、汚い汗を早くタオルで拭きなよ。なんておまけに暴言を吐いて、晴矢の顔はみるみる不機嫌になっていった。
「おまえさ、もう少し気ぃ使えよ」
「君に気を使いたくない」
「はあ、……あっそ」
渡したタオルで晴矢は汗を拭く。呆れたようにため息をつかれて少し傷付いた。やはり迷惑なのか?私が世話を焼くなど。そういえば最近、晴矢から好きって言われてないような気がする。
「このドリンクばかりじゃ飽きるよね」
照美が隣でさりげなく呟いた一言に私はズボンを握り締めた。飽きる?まさか、晴矢は私に飽きてしまったのだろうか。でも飽きられて当たり前かもしれない、私は我儘だから。
「涼野、行こうか」
「え、私は……もう少し休憩する」
「じゃあ、先に行くよ。南雲、頑張って」
「……おう」
照美に背中を軽く叩かれた。頑張って、とはどういう意味なんだろう。晴矢は照美に何かを話していたのか?
「風介、話があんだけど」
確信をついてしまったかもしれない。晴矢の真剣な顔は私をさらに焦らせた。フラれる。気付けばいやだと言って晴矢から逃げた。
「おい!風介!!」
「いやだ……!聞きたくない!」
「おまえは何を勘違いしてんだ!」
走って走って、晴矢からようやく逃げ切れたのに、私の体力では晴矢に追い付かれるのは時間の問題だった。
「逃げんなよ……わかってるから」
「わ、私を、フるんだろ?いやだ、聞きたくない手を離せ」
捕まった腕を振り回したのに晴矢は離してくれなかった。それなのに小さな赤子をあやすように私の腰に手を回して背中をさすり、優しく抱き締めた。
「おまえが悩んでるのはわかってるから、」
「はるや……」
「慣れてきたらでいい、いつか好きって言ってくれ」
「わ、わかっ、た」
私を理解してくれていたのが嬉しくて、さすが晴矢、なんて思ってしまった。こいつを好きになってよかった。口には出さないが、好きで好きでたまらないんだ。



好きで当たり前で



20100513
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