「風介ってば、」
後ろから付けてくるヒロトを無視して私は早足で颯爽と家に向かう。ごめん、痴漢してごめんね風介。未だしつこく謝るヒロトに苛立ちながら私は着信音の鳴る携帯をポケットから取った。
画面も見ずに何だ、と適当に返事をすれば電話の相手からの応答はなく、荒い息のような、誰かが咳き込むような音が聞こえる。一体誰なんだ?首を傾げて耳を澄ませば「ふーすけ、」とかすれた声が聞こえた。
「つな……み?」
うん、と弱々しい声を聞いて私はだんだん不安になってきた。携帯を耳に付けたまま私はヒロトを置いて走った。どうしたんだろうか、まさか綱海の身に何かあったのか、私は自分の家を通り過ぎて隣に住む綱海の家のピンポンを押した。後ろからヒロトが私を呼びながら走って来る。
「ふー、すけ」
のろのろと玄関を開けて顔を覗かせた綱海はいきなり私に倒れてきた。熱い、まさか、いや絶対に熱をだしている。私が慌てて支えるも綱海が重くて足がよろめいた。
「風介、手伝うよ」
「ヒロト」
後ろから伸びてきた手に安心して、私はヒロトと一緒に綱海を運んだ。ベッドに寝かせてあげれば綱海は汗をかいて気持ち悪そうにしていた。私は綱海から離れて洗面所へ向かおうとしたら、手を掴まれた。
綱海を見ればまだ熱を持った顔のまま息が慌くて、目の奥は霞んでいた。私が心配そうに手を握り返すと、綱海は口をぱくぱくさせる。
「はら、へ、った」
「朝から何も食べてないのかい?」
「な、なら、私が作ってやる」
小さく頷いた綱海に、私は晴矢に作ってもらったお粥を思い出した。台所に向かい冷蔵庫を開けて卵を取り出した。綱海の為にお粥を作るんだ、そう決心して卵を割ったが、お椀の中にはたくさんの殻が入った。
「……で、出来ない」
新しい卵を出そうと冷蔵庫を開けてまた取り出した。お椀に黄身を落として、また殻がぼろぼろとお椀に落ちる。やってられん、私に料理など不釣り合いだ。
舌打ちをして卵は後回し、ネギを持って包丁で切ろうとしたらヒロトが台所に顔を出してきた。
「お粥、出来る?」
「で、出来る、……多分」
「手伝うよ」
笑顔で入ってきたヒロトは私から包丁を取るとネギをさっさと細かく切っていった。器用な奴だと思ったが内心はひどく羨ましい。
「あ、」
ツプ、包丁の刃がヒロトの指にかすれて血が浮き出てきた。私が驚いて見たら、ヒロトはドジを踏んだような軽さで困ったように笑い、風介、と私を見た。

「舐めて」

なんだかわざとらしい気がした。



20100419
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