俺は携帯を半田に突き返して、泣くのを我慢しながら睨み付けた。半田は焦っていたけど俺はもう一刻も早くこの場を立ち去りたかった。
「一之瀬……」
「俺は」

この人の代わりじゃ、ない

「真一……?」

横からした声に俺と半田が一緒に振り返ると、そこには俺と同じ顔をした女の子が首を傾げて半田を見ていた。ああ、やっぱりこの子だったのか、彼女は俺に目もくれず半田に抱き付いた。
よかった、会いたかった。そんなことを目の前で言われて、俺の目からこぼれる涙は止まらなくなった。俺はそこから逃げた。後ろから俺を呼ぶ声が聞こえたけど、足は止まらなかった。




ピロリロリ

「ほら、半田だぞ。見てやれよメールくらい」
武士の情けだ、と言う土門に免じて俺は携帯を開いた。学校に来てからは土門にいろいろと聞いてもらって、俺の目は赤いままだ。もう、昨日の所為で何もかも疲れた。

『会って話がしたい。5時にあの公園で待ってる』

俺は携帯を閉じて椅子から立ち上がった。土門に帰る、と一言告げて鞄を持つ。
「半田はどーすんだ?」
「行かない、待ちたきゃ勝手に待てばいい」
どうせすぐ帰るに決まってる。俺のことなんか、待つ訳がない。
バスに乗って、あの本屋さんを見て、俺はため息をついた。家に着いてベッドに入った。それからはもう約束の5時は過ぎて、既に8時、9時、……10時前になっていた。
そう、半田はあんな風に待ってなんかいない。俺が恋をした、あの本屋さんの前で楽しそうで幸せそうに、待つ訳がない。

待つ訳がない、いる訳がない

親にコンビニに行くと言って俺は家から出た。もう約束から5時間は立ってる。真っ暗だし、寒いし、待ってる訳がないんだ。
足はあの公園に向かっていて、着いてすぐ視界には半田の姿が入った。まだ制服のままで、学校が終わってからずっと待っていたのかと思うと悔しくて、泣けてきた。
「何、やってんだよ!」
銀杏を思い切り踏み付けたらザッと音が鳴って、半田は俯いていた頭を上げて俺を見た。よ、と微笑まれて、俺は半田を睨んだ。
「一之瀬待ってた」
「何時だと思ってんの!?馬鹿じゃないの!?」
「はは……大馬鹿だな」
おかしく笑った半田は、俺を見て、また俯いた。
「俺、一之瀬が好きだ……なのに、「元カノに似てるから」だって勘違いしてた」
切なそうに、今でも泣きそうな半田に、俺は涙が止まらなくて、半田の携帯を持つ手に触れれば、凄く冷たかった。
「手、冷えちゃった……ね」
俺が息を吐いて暖めてあげたら、半田はそのまま指を絡ませて顔を近付けてきた。携帯が地面に落ちて、俺と半田は冷たい指を繋いでキスをした。

携帯の画面には、俺が幸せそうに半田を待つ姿が映されていた。




「ごめん一之瀬っ」
「遅いー、寒いー」
待ち合わせをした場所で、俺はいつも遅れて一之瀬の元へ行く。一之瀬はふてくされていて頬を膨らましていた。
「もー、なんでいつも遅いの?」
「内緒」
「ええ!?なにそれなんで?」
上目遣いで睨まれて、俺は思わず笑みがこぼれる。だって、俺を待つ一之瀬を見たいから、なんて言ったら一之瀬はずるいって言うだろ?


俺を待つ君の姿が愛しい。



end


20100417
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