何が悲しくて泣いているのかなんて、きっと、いや絶対に佐久間が関係しているんだろう。俯いてシャーペンを置いて、ぼうっとしていたら教室の扉が開いた。
「鬼道さん、あの、聞きたいことがあるんですけど」
泣いているのをばれないように俯いた。佐久間が教室に戻って来て、俺の目の前に立つ。
「……あのストラップ、どうしました?」
「……捨てた」
いきなり机を叩かれて、ドッと音が鳴る。佐久間は俺の顔を覗いて、真剣に、まっすぐに俺を見る。
「この間からなんなんですか」
「何をそんな真剣に……」
「真剣です!!」
佐久間は声を荒げて、そのあとは小さな声で呟く。必死なんです、笑わないでください。そんな胸が締め付けられることばかりで、苦しい。
「好きなんです、鬼道さん」
俺も好きだ、だけど、そしたら春奈はどうなるんだ。俺は春奈の泣く姿を見たいんじゃない、俺は春奈に笑っていて欲しいんだ。
「……すまない」
「なんで、ですか?音無さんですか?」
核心を突かれ俺は慌てて椅子から立って日誌を持った。でも佐久間に腕を取られ、逃げれなくなる。俺は佐久間に背中を向けたまま涙を流す。日誌で顔を隠して、ばれないように必死だ。
「こっち、向いてください」
「……がいだ」
「え?」
「誰のものにもならないでくれ」
振り返った俺の頬は涙で濡れていただろう。佐久間が目を見開いて、掴まれる手が緩くなったところで俺は逃げた。

それからは、何の変わりもなく、すべては幻だったかのように毎日が過ぎた。想いを無理矢理消した日から季節はめぐり、俺は男子校へ、春奈と佐久間は同じ高校へ進んでいった。
「春奈、久しぶりだな」
「お兄ちゃん!あのね、私、佐久間くんと同じクラスになって……」
駅で待ち合わせしていた春奈と会えば、相変わらず明るくて可愛くて、さすがは俺の妹だ。
「告白、したんだ」
照れて笑う春奈に、俺は一瞬止まってしまったけれど、すぐに冷静になって微笑んだ。そしたら春奈は悲しそうに俺を見た。
「お兄ちゃん、佐久間くんのこと好きだったんでしょう」
「……知ってたのか」
「私、フラれたんだ。「誰のものにもならないから」って」
「え、」
すると春奈はじわりと瞳に涙を溜めて、困った顔で笑う。佐久間を6時に呼び出したとかで、俺は慌てて携帯の画面を開いて時間を見た。
「もう、我慢しなくていいよ」
春奈が柔らかく笑って手を振って去って行くと、見慣れた髪の色と眼帯が目に入った。
「え、鬼道、さん?」
「さ、佐久間?いや、あの」
佐久間も春奈に呼び出されただけで俺のことは聞いていなかったのか、俺は手にある携帯を抱き締めながら佐久間に久しぶり、と顔を赤くして言うと、佐久間は微笑んでくれた。
「鬼道さん。ストラップ、捨てたって言ってませんでした?」
佐久間の指を差す先には、俺の携帯に繋がるストラップ。佐久間からもらった物だ。

「佐久間、あ、ぁの」

好きです。



end
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