俺は佐久間からもらったストラップを見て悩んでいた。わかってるんだ、俺が春奈を応援しなくちゃいけないってことは。だけど本気で応援出来ないのは、何処かで自分が佐久間に惹かれているからだ。
トイレに入り、座りながらずっと考えた。心の中でストラップをもらったことを後悔した。春奈に何度も何度も、謝った。


トイレから出て教室に戻れば、誰も居なかった。クラスは静まり還り、俺は唖然とした。扉の前で戸惑っていたら、誰かの足音が聞こえる。
「鬼道さん!?」
振り返れば佐久間が居て、ここじゃなくて視聴覚室らしい。移動教室なんて聞いてなかったから、佐久間が戻って来てくれて助かった。
「俺が忘れ物して良かった」
笑顔で俺を見る佐久間に、見とれてしまう。顔が赤くなって、小さく頷いた。佐久間は、優しい。

二人で視聴覚室に入れば、春奈が申し訳なさそうに俺に謝ってきた。待たないでごめんね、と言われたので大丈夫だと笑って返した。
「ねえ、お兄ちゃん」
「ん?」
「もしかして佐久間くんのこと好きなの?」
こっそり言われた言葉だったけど、俺の手は汗ばんで、緊張していた。もし好きだって言ったら、春奈は笑って流してくれるだろうか、それとも泣いてしまうのか。でも俺は男だ、春奈だってわかってはいる筈だ。
「別に好きじゃない」
「でも、さっきストラップ……」
「安心しろ春奈。俺は男だ」
「……う、うん」
これでいい。春奈の為に、俺は身を引くんだ。



「鬼道さん、宿題を……」
照れながら笑ってくる佐久間に眉を寄せながら、俺は横に立つ春奈に振った。
「春奈、見せてやれ」
「あ、はい!どうぞ佐久間くん」
「ありがとう」
佐久間は目を合わせない俺に驚いていたけど、すぐにまた元に戻り、春奈からノートを受け取っていた。よく見れば佐久間と春奈はお似合いじゃないか、良かったな、春奈。笑い合う佐久間達を、俺は目を伏せて見守った。



クラスのみんなが帰る頃、俺と佐久間は日直で、残って日誌を書かなきゃいけない。俺がすらすらと文字を書いていき、佐久間は隣で俺を見ていた。
「鬼道さ、」
「日誌は俺が書いておくから、もう帰れ」
「……はい」
佐久間の言葉を遮り、俺は黙々と日誌に文字を書く。佐久間も自分の鞄を持って教室を出て行った。俺はただ、何かが悲しくて切なくて、頭を抱えて涙をこぼした。



20100414
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