「おはよー!」
教室に入ってみんなに挨拶を済ませる。俺は鞄を机の上に置いて席に着いたけど、視線に気付き顔を上げれたら夏未や春奈が俺を見ていた。夏未と目が合えば大袈裟に避けられ、春奈は俺を軽蔑のような眼差しで見ていた。
よくわからなかったけど、秋が教室に入って来たから秋を見たら、俺を避けるように目線をずらす。それについていけなくて俺は黙ったままだった。
「円堂くん、ちょっといいかな」
「秋?うん」
呼ばれて廊下まで出れば、秋は言いにくそうに口を開いた。昨日のこと、理科室でのことを見られていた。それと風丸のことを、秋は豪炎寺くんと言った。俺は、騙されていたのか?。それに、秋の好きな人と内緒で会っていたなんて、言われるまで気が付かなかった。
俺は走った。廊下に秋を置いてただ豪炎寺の元へ向かった。クラスに居る生徒に豪炎寺は、と聞けばちょっと待ってと言われる。
「おーい豪炎寺、お呼びだぞ」
「俺に?」
振り返ったのは、昨日まで一緒にいた『風丸』のフリをしていた本物の豪炎寺だった。秋の、好きな人だ。豪炎寺は俺の様子に気付いたのか、慌てて椅子から立ち上がったけど、俺は翻って背中を向けた。
豪炎寺から逃げた。本当に、風丸じゃなくて豪炎寺だった。俺は騙されていた。後ろから大声で呼ばれ、俺は振り返って涙をこぼした。豪炎寺は、凄く苦しそうな表情をしていた。

「ごめん……知らなかったんだ。俺、風丸って奴だと思ってて」
「そんなのあり得ないですよ!」
謝ったけど、やっぱり昨日のことも見られたし、俺もそれ以上は何も言えなかった。知らなかった、そんなの言い訳にしか聞こえないのに、俺は小さくため息をついた。


今日の体育ではまたマラソンだ。生徒がグラウンドに集まり、俺も張り切っていた。隣では女子の秋達も居たけど、話し掛けることは出来なかった。ただ先生が来るのを待っていたら、隣の女子達が騒つき始めた。そこには豪炎寺がいた。
「円堂!」
「……え」
「ずっと風丸のフリしてて、すまなかった」
女子の中に居る夏未や春奈が驚いて、俺を見る。豪炎寺は頭を下げていて、俺は掛ける言葉なんて見つからなかった。拳を強く握り締めた。
「はははっ、もとはといえば俺が間違えなかったらよかったのにな!でも俺、ウソつき嫌いだし……もう声掛けないで」
丁度先生達がやって来て、俺は逃げるように豪炎寺に背中を向けた。後から春奈達が走って来て、謝られた。秋も夏未も申し訳なさそうに俯いて、だけどそれを俺は笑ってごまかした。

世の中は、平和が一番だ。

放課後、一人になった教室に俺はまだポケットに入っていたカカオチョコを取り出した。口に入れれば、やっぱり、凄く苦くて、涙が出てきた。

チョコと薬とテストと、そしてやっぱり、恋は甘い方がいいんだ。



20100414
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