あれ、寝てたのか、薬を飲んだ副作用でいつの間にか眠気に襲われていた。しかも涎まで垂れて、かなり爆睡してたみたいだ。こんなにぐっすり眠ったのはいつぶりだろう。窓の外を見ればもう夕暮れになっていた。布団も掛けられているし、看護師でも入ってきたのか、鍵は鬼道が開けたのだろう。
「よく寝てたな」
「……ああ」
「看護師がおまえの夕食を置いていったぞ」
「いらない」
「食べないのか?」
「食欲がないんだ」
また布団に潜り込んでシーツに顔を埋める。ああでも少し腹が減った気がするからつまみ食いでもしよう。ベッドを抜けて裸足で歩き横にあるテーブルに手を伸ばした。今日のもまた薄そうな料理だな。
「もうすぐ夜だな……」
鬼道が憂鬱そうにため息をついた。夜が怖いのか?だらしないな、俺はいつも一人で寝てたぞ。どうせあの眼鏡を掛けた妹と添い寝でもしてるんだろう。でもあんまり似てないよな。俺は卵焼きを手でつまんで口に入れた。
「風呂に入りたい……」
「案内するぜ」
「いいのか?」
鬼道は着替えをちゃっかり持ってきている。松葉杖で歩くのは大変だろう、しかも風呂場もわからないなら俺が案内するしかない。別に看護師に頼めばいいが、なんとなくだ。俺は鬼道の松葉杖を床に戻し、鬼道の腕を肩に回して支えてあげた。
「佐久間、別に俺は一人で歩ける……」
「気にするな、ただの気遣いだ」
病室の扉を開けたらたまたま俺を見た看護師が驚いていた。それもそうか、俺が人と関わっているところなんて全くないからな。風呂場まで鬼道の歩調に合わせて歩いた。俺も入ろうかな、と考えていたが鬼道は一人で入りたいらしい。でも入ってる奴らは他にもいるぞ。
「なあ、一緒に入ろうぜ鬼道」
「……いや、やめておいた方がいいぞ」
「そうか?」
何かを隠しているのだろうか、でも深入りはいけないよな。鬼道って、近くで見ると小さいな。いや、俺と同じくらいかな。脱衣場に着いて俺が服を脱ごうとすれば鬼道が眉をしかめる。そんなに一緒に入りたくないらしい。連れないな、同室の仲なのに。まあ、今日が初めてだから仕方ないか。それより、なんで俺はこんなに世話をやいてるんだろう。あんなに人間不信だったのに。そういえば年の近い奴と最近接したことがなかった。俺の回りはいつも大人ばっかりだったから、うんざりしてた。友達と言える友達、確かいなかったな。
「佐久間、病室に戻っていても構わないぞ」
「じゃあ、先に寝とくよ」
「ああ、わざわざありがとう」
鬼道はゴーグルを外して服を脱ぎ始めた。俺は手を挙げて脱衣場を出て、その足で病室へ戻る。薄暗い廊下を歩いてるまではよかったが、つい胸が苦しくなって咳き込んだ。口を手で覆っていたからよかったが、手のひらには血が付いていた。もう薬が切れたか、鬼道の前ではなるべく吐血はしたくない。薬の量を増やしてもらおう。
「……どうせ死ぬけどな」
自分を嘲笑い血の付いた口元を手で拭いた。病室に戻り、まずティッシュで手に付いた血を拭き取り口の中が鉄臭いからサイドテーブルに置いてあるペットボトルで潤した。あまり使っていなかった携帯を鞄から取り出し、鬼道のベッドにある携帯を手にとりアドレスを貰おうとした。ロック掛かってるし、なんだよ。鬼道が帰ってきたら聞こうと待っていたけど、なんだか眠たくて瞼を閉じた。

10.07.22
入院したことないからわからない。
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