俺はもう生きている意味がないと思う。血は吐くし髪は抜けるやらで最低最悪の人生だ。こんな生死を彷徨うようなことは疲れた。けどもう吹っ切れた。何故かって、別に俺が死んでも誰も悲しみやしないから。早く死んで第二の人生を俺は歩みたい。こんな真っ白な病室、くそくらえ。喉が渇いたからベッドから抜けて廊下を出る。自動販売機は病室を出た廊下の端だ。歩くのがたるい。看護師は俺を見る度に減らず口を叩く。佐久間くん今日もかっこいいよね、でももったいない、佐久間くんあんなに容姿は完璧なのに病持ちだもの。好き勝手言いやがって、黙れよ、聞こえてんだよ。小銭を入れてボタンを押したらガコン、と缶が落ちてきた。異論する気も失せる。取り出した缶を握り潰したら少しへこんだ。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「ああ、すまない……春奈」
ジュースを口の中に流し込んでいたら松葉杖で廊下を歩いてる奴がいた。怪我か、大したことないのに入院かよ。俺ほどじゃないな、と目を離してジュースを飲みきった。口を腕で拭いて缶をゴミ箱に投げた。そのまま廊下を歩きながら病室に帰ろうとしたら発作的に胸が苦しくなった。俺は顔をしかめながら通り過ぎたトイレへ走っていった。そのまま手洗い場で吐血した。くそ、ったれ。肩で息をしながらまたむせるように吐いた。赤い血の塊がごぽりと口から吐き出される。前にある鏡がやつれた俺を映して気味悪い。口元は血だらけだ、吸血鬼かっての。また病室に帰って大量の薬を飲まなきゃならない。水で血を洗い流してトイレを出た。自分の病室の目の前に来てふと気付いた、名指しが俺の下に付け足されている。佐久間次郎の下に鬼道有人の文字、誰だよ、変わった名前だな。せっかく一人部屋で気が楽だったのに。黙って名指しを見上げていたら扉が開き、青い髪で眼鏡を頭に掛けた女の子が病室から出てきた。
「もしかして、佐久間さんですか?」
「……ああ」
「兄が同じ部屋でお世話になりますので、よろしくお願いしますね!」
ぺこりと頭を下げて笑顔で去って行った。あの眼鏡、よく落ちないな。あー、馴れ合いとかめんどくさい、俺なんて担当の看護師が媚びてきてうざかったから反抗して嫌がらせしてやればすぐに担当は変わった。看護師の暖かい言葉は、俺の胸に残酷に突き刺さることばかりで現実を見ようとはしない軽い発言だ。俺は別にいつ死んでもいい、そう言い返せば看護師は俺を哀れな目で見つめた。点滴とか要らねえ、と手を振り払えば怒られるから黙って付けられる。そして看護師が去ったら速攻で抜く。だから、死んでもいいって言ってただろうが。おかげで俺は手に負えない患者リストだ、ふざけんな、別に俺は障害者じゃない。また発作が起きると厄介だから病室に入り扉を閉めた。ついでに鍵も閉める。いちいち検査とか受ける必要がないし、入って来ると鬱陶しいからだ。
「何故鍵を閉める?」
後ろから聞こえてきた声に振り返り、ベッドに座る奴を見た。脚に包帯を巻かれている。ていうか、ゴーグル?俺が不思議と見ていたら相手は気付いたのか、ああ、これはトレードマークだと言ってゴーグルを外した。赤いつり目、珍しい。
「綺麗、だな」
「そう言われたのは初めてだ」
ぱちぱちとまばたきをして赤いつり目を丸くしていた。そしてゴーグルを付け直す。何故そんなものを付ける必要があるんだろうか、誰かからの贈り物かな。変なトレードマークだ。
「これからはよろしく頼む」
鬼道が無表情のままに言う。俺は遠慮がちに頷いて自分のベッドに戻った。人と馴れ合ったのはいつぶりだろう。懐かしい感じがした。

10.07.22
こーゆうの書きたかった。
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