バイトをし始めた、と聞いてやって来たのがこの店だ。俺はただ唖然とその店の入り口に立ち、目立つ看板を見上げる。看板にはかわいい女の子がフリフリの服を着て写っていた。
帰ろうかな、と一歩下がり、また一歩進み、うろうろしていたら俺を呼んだ張本人が店から出てきた。
「もー半田、遅いよ」
「え、あ、うん」
こんな店で働いているんだから一之瀬もてっきり変なコスプレをしているのかと思った。でも出てきた一之瀬の格好は普通のバイト用の服で、少し期待外れだった。いや、別にそんな趣味はない。
「さ、入って入って、俺も休憩時間になるからさ」
中に入ればメイド服を着た女の子達が俺に振り返り、お帰りなさいませご主人様。などと上目遣いで見つめてくる。かわいいけど、恥ずかしい。顔が赤いまま目線を泳がせば一之瀬と目が合って、ジト目で見られた。
でも頬を膨らまして俺を睨む一之瀬の瞳が嫉妬で入り混じっているのが心地いい。
「は、半田!こっち」
一之瀬に服を引っ張られて俺は椅子に座らされた。待ってて、と言われて一之瀬はさっきのメイドの子達と奥の部屋へ行ってしまった。それを見届けて閉まったままの奥の扉をぼうっと眺めていた。すぐにメイド達が出て来たけど、見慣れた顔がそこにいた。
「い、一之瀬?」
「あはは……どうかな?俺、和服が似合うって言われて」
しかも犬耳まで付けて、飾り物なのにふさふさした尻尾が動いていた。確かにミニスカートで露出をするのは俺にとって目が行くものだが、おとなしくて控えめな和風の服は一之瀬にぴったりだった。ミニじゃないけど、ロングでフリフリなスカートはかわいい。
「か、かわいい……」
「半田の方が似合うかな?これ」
「いや、俺は別に……」
「でも半田に見てもらって嬉しいよ。俺、いつもこれでバイトしてるから」
「……は?」
今なんて言った?いつもこれでってことは、そのフリフリの和服を着てバイトをしてるってことだよな。
「よし一之瀬、バイト変えろ」
「へ?」
「そ、そんな和服をな……着て……俺は、心配、というか、その」
もごもごと言いづらそうに口を開いたり閉じたりしていたら、一之瀬は俺の膝の上に座って腕を回してきた。
「ご注文は?ご主人サマ」
「……!」
どうやら一之瀬はこの女装、言わばコスプレが気に入ってるようで辞める気はないらしい。俺は小さくため息をついて、笑った。

「一之瀬で」

そう言ったら嬉しそうに顔をほころばせて、一之瀬は目を閉じた。



20100421
一之瀬って女装とかやってくれそう…。
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