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「もうっ、ルフィってばどこ行っちゃったんだろう」

シャオリーはビブルカードに従いながらも、ルフィを探しながらシャボンディ諸島を歩く。
シャオリーは、見聞色の覇気が苦手だ。だから、相手の行動を先読みしたり、遠くの人物の気配を感じ取ったりすることができない。
ルフィのことも、地道に探すしかない。

「(なんだか…2年前に比べると、雰囲気悪くなったな…)」

シャボンディ諸島は観光地という事もあり、以前は観光客や一般人で活気づいていたが、今は海賊やゴロツキの方が目立つ。

「(何事も無く、無事に出航できるといいけど)」

だがシャオリーの経験上、"何事も無く、無事"を祈れば祈るほど、正反対の事が起きる。

しばらく歩くと、建物の陰に海兵が潜んでいるのを見つけた。

「(海兵…!)」

シャオリーは一旦足を止め、フードを深く被り直す。海兵は、建物の向こうの様子を静かに伺っている。

「(どうしてこんなところに…… それより、何を見てるんだろう)」

海兵は電伝虫で報告し(小声だったので内容は聞き取れなかった)、それから指示を受けたのかどこかへと行ってしまった。

シャオリーは、先ほどまで海兵が立っていた場所へ行き、同じようにそっと建物の陰から覗く。
少し先に、変わった風貌の集団が集まって話し込んでいた。

「………………」

シャオリーはパチパチと何回か瞬きをした。
それから、手に持ったままだったチラシに目を落とす。そして、また目の前の奇天烈な集団を見る。

「…………まさか、あれが?」

どうやら、偽物の"麦わらの一味"を見つけてしまったらしい。

真ん中に座るのは、ルフィの偽物。麦わら帽子を被ってはいるが、贅肉だらけの巨体に汚らしい髭、声はどこかで聞き覚えがある。
他の面々も髪型や髪色、似たような服を着てはいるが、"よく知っている"人間なら絶対に偽物だと気付くレベルだ。

「(ロビンとチョッパーの偽物はいないな…)」

似てる人物が見つからなかったか、別行動を取っているのか。
そして、黒髪をツインテールに結んでいる女がいる。あれが自分の偽物だろう。

「…………………」

他人の容姿にとやかく言いたくは無いが、もっとマシな人物はいなかったのだろうか。

「(私は、世間からああ見えてるんだ…)」

シャオリーは、ナミやロビンほどはお洒落を楽しむ性格ではない。
もちろん肌や髪のお手入れには気を遣っているし、二人と一緒にヨガやエクササイズに勤しむこともあるが、ほとんど化粧はしないし、服も華美なものよりはシンプルで動きやすいものを好む。
「シャオリーはすっぴんのままで十分」「化粧したら、むしろ可愛くなりすぎて危険」と二人には言われてきたが……

「(もっと自分磨き、頑張ろう)」

シャオリーは小さく拳を握った。

すると、自分の偽物がルフィの偽物にベタベタとくっつき始めた。
互いに絡みつき、濃厚なキスを交わし、人目をはばかることもなくイチャイチャしている。

「!?」

シャオリーはフリーズする。

「おい、見ろよ、あれ」
「ああ… "麦わらの一味"だろ」
「"麦わら"と"堕天使"だな。恋人同士って噂を聞いたけど本当なんだな」

通りを行き交っていた海賊達が、遠巻きに偽物達を見てヒソヒソ話し始めた。

「"堕天使"って、手配書を見た感じだと、もっと清純そうなイメージだったけど…」
「こんな人前で、あんな事できるなんて」
「いいね。あの見た目で実は尻軽とか、そそられるなァ」
「所詮は海賊ってわけだな」

「!?!?」

偽物達のせいで、シャオリーのイメージが崩れていく。
そもそも海賊なんてやってる時点で、世間からの評判など気にした事もないが、目の前で行われては話は別だ。

「あっ、あのっ」

思わずシャオリーは飛び出してしまった。
今はとにかく二人のイチャイチャを止めなければ…!

「えっと……む、麦わらのルフィ…さん、 ですよね」
「ああ?」

しどろもどろだが、シャオリーは偽ルフィに声をかける。
偽シャオリーとのお楽しみを邪魔をされた偽ルフィは、不機嫌そうな目でじろりとこちらを見下ろした。

「ちょっと、あなた誰? いきなり出てきて、馴れ馴れしくルフィに話しかけないでくれる?」

偽シャオリーがぷくーっと頬を膨らませる。
すると偽そげキングが、シャオリーがチラシを持っているのを見つけた。

「入団希望者か? お前、海賊なのか?」
「い、一応…」
「そのチラシ、ちゃんと読んだか? ウチは懸賞金7千万以上じゃねェと受け入れてねェんだ」

こんな小娘が賞金首ではなかろうと、偽そげキングはしっしっと追い払うような仕草をした。

「(2億なんだけどなー……)」

正体がバレるので言えない。
というか、思わず飛び出して来ちゃったけど、冷静に考えてこの状況ってすごくマズイのでは…?
周りの視線が集まっているのを感じる。
ここは大人しく引き下がった方が良いかもしれない。一応、二人のイチャイチャは邪魔できたし。
うん、そうしよう。

「あ、そうですかー。残念ですー。じゃあ私はこれで」
「ちょっと待て」

棒読みの演技で帰ろうとするシャオリーを、偽ルフィが引き止める。
そしてじろじろと品定めするようにシャオリーの顔を見つめるので、シャオリーの心臓がドクンと嫌な跳ね方をした。

「お前……もしかして…」

ま、まずい。バレた…!?

いつでも逃げられるように、シャオリーは体に力を入れる。

「おれに惚れたか?」

は?
と思わず声が出そうになるのを、シャオリーは必死に堪えた。

「女一人で乗り込んでくるってことは、おれとお近付きになりてェって事だろ?」
「ワハハ。今シャオリーと船長がイイコトしてたから、自分も、って思ったのか」
「なんだ、そういう事か」

偽ルフィは、シャオリーのように可愛い女性から好意を寄せられているという事実を噛み締めるようにウンウンと頷いている。

「ちょっと!ルフィは私のものなんだから!
あなたには渡さない!!」

偽シャオリーが怒って、偽ルフィに抱き着く。

「まァまァ、シャオリー。どんなにこの女が飛び抜けて可愛かろうと、おれの中で一番の女はお前だからよ」
「んもう、ルフィってば」

再びベタベタする二人を、シャオリーは地面の上で干からびているミミズを見るような目で見ていることに気付き、ハッと我に返った。

「仕方ねェ。特別におれの女として迎えてやろう。
さて、46番GRに行くぞ。お前も着いて来い」

偽ルフィは偽物達を引き連れ、移動を始めた。
仕方なく、シャオリーも一緒に着いていく。

「(46番GR? 何かあるのかな)」

偽ルフィが何をするつもりなのか気になるが、本物のルフィの行方も気になる。
海兵が偽ルフィの動向を探っていた事もあり、もしかしたら裏では海軍も動き始めている可能性がある。海軍がウロウロしていては、自分達の再出発にも影響が出るかもしれない。

やがて、シャオリーは46番GRに到着した。
そこには、大勢の海賊が集まっていた。ざっと100人は超えているだろう。
チラシで募った仲間が、これだけ集まったということだ。

「(すごい数……)」

偽ルフィ達は一段高くなっている高台に立つ。シャオリーは偽物達からはなるべく離れたところに立った。
偽ルフィの姿を見つけると、海賊達が興奮して騒ぎ始めた。

「うおー!!"麦わらのルフィ"船長のお出座しだァ!!」
「ウオオオ〜〜〜っ!!!」

偽ルフィはいつの間にか赤いコートを肩に掛けていた。
他の偽物達も、腕を組んだり腰に手を当てたり、偉そうな態度で偽ルフィのそばに控えている。

「おめェら全員、この先はおれの子分!!
"麦わらの一味"の船員だァ!!!」

偽ルフィは銃を空に向かって発砲する。

「つまり! おれが"海賊王"になった日には、おめェらは"海賊王の船員"!!
その為に!この先の冒険、おれの手となり足となり!命を賭けて戦え!!!」

ウオオオ、と雄叫びが響く。
"麦わらのルフィ"を敵対視する者もいれば、憧れを抱く者もいる。
ここに集まったのは後者の海賊達だ。"麦わらの一味"に加入できる事を素直に喜んでいる者ばかりだった。

「おめェらを集めたのは他でもねェ!
この"大頭"であるおれを侮辱した、どこぞの馬の骨どもがいる!
そいつらを探して、おれの前に引きずって来い!!」

海賊達は「お易い御用だ!」と快諾した。

「侮辱されたって?」

シャオリーは、一番近くにいた偽ナミに尋ねた。

「さっき酒場で、ルフィ船長の誘いを断った女がいたの。そしたら鼻の長い男がやってきて、巨大な植物に襲われるし、最後は何故か雷が店に落ちてきたのよ!
それから、その二人を探してる時に、マントを着た男が船長にぶつかってきて……」

鼻の長い男ってあの人しかいないような……それから、雷を操れる人物にも物凄く心当たりがある。
まさかと思いつつ、シャオリーは言葉の続きを待った。

「でっかいリュック背負ってて、通行の邪魔してたのは向こうなのに、生意気な態度をとってきてムカついたわ」

でっかいリュックを背負ったマントの男って、絶対ルフィじゃん!?

「そっ、そのマントの男は…?」
「なんかよくわかんないんだけど、気付いたら私達みんな気を失ってて、その男はその隙に逃げたみたい」

偽ルフィは、その3人を探して報復すると言うのだ。

「(もしかして、ここにいれば誰かに会えるかな)」

シャオリーの気持ちは密かに高揚していた。
ウソップとナミは、既にシャボンディ諸島に来ている。
確実に、"麦わらの一味"はこの島に集まっている!

「船長!!」

すると、偽ゾロと偽サンジがやって来た。後ろには、でっかいリュックを背負ってマントを着ている人物を連れている。

「あんたが探してた男ってのは、コイツの事でしょう?」
「(ルフィ!)」

早速、ルフィと再会できた。ルフィは、ハンコックから貰ったヒゲを付けて変装していた。

「お、シャオリー! ここにいたのかァ!!」

ルフィはシャオリーの姿を見つけると、パアッと笑顔を輝かせた。

「良かったー! 急に居なくなっちまったからビックリしたぞ」
「あっ、えっと」

シャオリーとルフィが既知の仲と知り、偽物たちは怪訝な目をこちらに向けてくる。
ルフィはぴょんと高台に飛び乗り、シャオリーのそばにやって来た。

「コイツら、知り合いか? 実はさっきよ…」
「おい」

ルフィの後頭部に、銃口が突き付けられる。偽ルフィだ。

「人の女に馴れ馴れしく声を掛けんじゃねェ」

人の女、という単語にルフィがぴくりと反応する。

「そいつはな、おれに惚れて仲間入りを志願してきたんだ。
もちろんおれにゃシャオリーがいるから恋人にはしてやれねェが、愛人としてならいくらでも可愛がってやろうと思ってな」

偽シャオリーが偽ルフィに抱き着き、勝ち誇ったような表情でシャオリーを見てくる。

「……あ? 何言ってんだ、お前」
「その女は、このおれ、懸賞金"4億"のエリート海賊"麦わらのルフィ"のものだって言ってんだ!!」

「(4億…?)」

2年前、ルフィの懸賞金は3億だったはずだ。頂上戦争の後、金額が上がったのだろうか。
無人島にいたルフィはもとより、"女ヶ島"も外部からの情報がなかなか入らない島なので、この2年間に世の中で何が起きていたのか、シャオリーもルフィもほとんど把握していない。

「(もしかして私も金額上がってるかな)」

頂上戦争で大暴れしたのだ、可能性は大いにある。
一瞬、目の前の出来事から離れて別の思考に飛んだシャオリーだが、バキッという骨の鳴る音で現実に引き戻された。

「誰が誰に、惚れたって…?」

ルフィが右手を鳴らした音だった。声のトーンが低い。
静かに怒る時のルフィは、本当に恐い。

「ルッ、ルフィ、待って」

シャオリーが止めようとルフィの腕に手を添えた時。

「そこまでだァ!!!海賊共!!!」

叫びと共にジャキジャキッと銃を構える音が響き渡った。
海軍が、海賊達を包囲していた。



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