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降り積もった雪も溶け、春がやって来た。
桜が咲き始める頃、六年生たちは忍術学園を卒業した。
「今日でもうお別れかあ…」
「寂しいね…」
卒業式の後、六年生たちは全員で学園のあちこちを見て回った。どこも、思い出がたくさん詰まった場所だ。
最後に長屋を見たとき、花の脳裏には、六年間の思い出が走馬灯のように浮かんでは消えた。
「いろいろあったなぁ…」
六年長屋は全て綺麗に片付けられ、今は机がぽつんと置かれているだけだ。コーちゃんも、帳簿の山も、バレーボールも生首フィギュアも、全て元あった場所に戻された。
ふと、花は短い間だったが同室だった彼女のことを思い出した。
光ちゃんは、今どこにいるんだろう
元気にしてるかな
夜太郎と一緒に暮らしてるのかな
また、会いたいなあ
「(いつか、また学園に来てくれるといいな)」
私は、ずっとここにいるから
最後におばちゃんの料理を食べよう、ということになって六年生は食堂に向かった。
「おばちゃんの美味しいご飯も、これで最後か」
「でも花はまだ食べれるよな。いいなー」
「あらあら、食べたくなったらいつでも来ていいのよ?」
他愛もない話をしながら、みんなで食事をする。
当たり前だったことも、明日からはもう無くなってしまう。
こんな風にみんなで集まるのも、もしかしたら今日で最後かもしれない。
日が傾くと、いよいよ六年生たちは学園を後にする。正門には学園全員が集まった。
「せ、先輩…今まで、ありがとうございました…!」
「またっ、いつでも会いに、き、来てくださいっ!」
嗚咽を堪え、涙混じりの声でそう言われれば、自然とこちらも涙が出てくる。
「こちらこそ、ありがとう」
「また来るからな」
「これからの忍術学園を頼むぞ!」
後輩たちは目を潤ませながら「はい!」と声を揃えて答えてくれた。
何も心配はない
この子たちなら、きっと大丈夫
最後にもう一度別れの挨拶をする。そして、六年生はそれぞれの道を歩いていった。
決して交わることのない道は、どこまでも続いている
この道の先に何が待っているのかは、誰にもわからない
光なのか、闇なのか、はたまた別の何かなのか
「(未来のことはわからない、けど)」
前を歩いていた文次郎がふと足を止めて、夕日に背を向け、こちらに振り向いた。逆光でその表情は見にくいが、真剣な目をしているように見えた。
「まだ、きちんと言ってなかったよな」
花も足を止めて、文次郎の言葉を待った。
「花、好きだ」
この前と同じ言葉
この前は信じられなかった言葉
今は、素直に受け止めることができた
泣かないと決めていたのに、花の目には涙が溢れてきた。この一年で、私はとても涙もろくなったみたい。
「わ、私も…」
ずっと言えなかった
言いたくても、言えなかった
「好きだよ、文次郎」
それを聞くと文次郎は、照れ臭そうに、それでも嬉しそうに笑った。
涙を拭ってくれた文次郎の手は、とても温かかった。
" 好き "
ずっと言えなかった、その2文字の言葉
やっと、言えた
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