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「花、お前は……忍者をやめろ」
それは、冷気のようにじわじわと心に染みた。
突然の言葉に、花はまともに声も出せなかった。
「な……、え…?」
「忍者をやめろ。女が戦忍なんて目指すもんじゃねぇ」
「ち、ちょっと待って!いきなり何なの?」
意味がわからない…
どうして忍者をやめなきゃいけないの?
「この際だから言っておく。お前は忍者に向いてない。この先、忍者として生きていくのは無理だ」
「何、それ…だから忍者をやめろっていうの…?」
ショックだった。
私が忍者になることを一番応援してくれていたのは文次郎だった。一緒に勉強し、忍務もこなしてきたのに。
文次郎がこんなことを言うなんて…
「忍者に向いてない…そんなことは自分が一番わかってる…私は強くなりたいの!
みんなを、大切な人たちを守りたいの!」
私は、守れるのかな
「ひとりにはなりたくない!」
今だって、ひとりだ
「もう目の前で大切な人が死ぬのは見たくない…!」
私が強ければ、守れたのかな
「そんなことのために、お前は忍者を目指したのか」
「そんなことって…!」
花は思わず立ち上がった。
「文次郎にとっては"そんなこと"でも、私にとってはそれが全てなの!!
………文次郎にはわからないよ」
何も失くしていない文次郎には
「バカタレ、まだわからんのか。お前のその"守りたい"という気持ちがあるから、お前は忍者には向いてないんだ」
「…!」
「忍者に感情はいらない。与えられた忍務を遂行するためだけに存在するもの。もし出会った敵が家族や友人でも、忍務だったら戦わなくちゃならない。それが忍者だ」
「そう、だけど…」
花は言葉に詰まり、俯いた。
「それができないなら、忍者をやめろ」
「っ、でも…」
目の前で誰かを失う苦しみ
自分のせいで、誰かが死ぬこと
ただ、泣いて怯えることしかできなかった
弱い自分をどれだけ恨んだだろう
私が強ければ、守れたかもしれない
強くなれば、守れるかもしれない
「…私は、」
花は俯いたまま、呟いた。
「私は、強くなれたかな」
ただ、その答えがほしかった
私は………
「強ぇよ」
花は顔を上げた。いつの間にか文次郎も立ち上がっていた。
「花は強い。学園を…俺たちを守れたんだろ。
俺たちが今こうして生きているのは、お前のおかげだ。だから、お前はもういいんだ」
大切な"人"は守れた
でも、文次郎の"笑顔"までは守れなかった
光ちゃんがいなくなってから、私は文次郎の笑顔を見ていない
大切な人の"幸せ"は、守れなかった
文次郎と光ちゃんの未来は守れなかったのに
それでも私は、強いと言えるのかな
「………駄目だ。私は、一番守りたかったものを守れなかったんだから。
もっと強くならなきゃ駄目なんだよ。だから忍者はやめな、」
「ッ、バカタレェェイ!!!お前のことは俺が守ってやるって言ってるんだ!いい加減気付け!」
真っ赤な顔をして文次郎が叫んだ。花は驚いて、文次郎を見上げた。
「………、え?」
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