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"文次郎と別れようと思うんです"

予想もしていなかった光の言葉に、花は固まってしまった。

「………、え?」

数秒経って、花はそれしか言葉を発することができなかった。
なんで? どうして?

「ごめんなさい。花さんに励ましてもらって…勇気をもらって、文次郎に想いを告げることができたのに」
「どうして…」

光は目を伏せた。

「私はツキヨタケの人間で…今まで文次郎や皆さんのことをずっと騙していたんですよ?
何があったのかも全て話してしまったし、私はもうここにはいられません。ここにいる理由もありませんから」
「文次郎の恋人だから…理由なんてそれだけで十分だよ!どうしてそれを、」
「捨てるのか、って?正直、自分でもよくわからないんです。もしかしたら…」

光は顔を上げ、花の目を見た。

「私と花さんは似ている、って前に仙蔵さんに言われたことがあるんです」
「光ちゃんと…私が?」
「姿形ではなくて内面的なことだと思います。それで…もしかしたら文次郎は、私を花さんと重ねているのかもしれません」

花は怪訝な顔をする。
私を光ちゃんに重ねる…?

「これも仙蔵さんに聞いたのですが…その髪留めは文次郎が花さんにあげたものなんですよね」

光は、花の枕元にある髪留めを指さす。

「それは…何て言うか、文次郎の想いだったのではないか、と」
「文次郎の、想い…?」

ますます花は混乱した。

「髪留めを渡すということは、髪を伸ばしてほしいから。髪を伸ばすということは、女でいてほしいから。
花さんに、女を捨ててほしくなかったから」

その言葉で、花は髪留めをもらったときのことを思い出した。

「女を捨てる必要はないんじゃねぇか?」
「え…」
「だからよ、お前が女を捨てるのは…その…もったいない、と思うぞ」


女を捨ててほしくなかったから…?

「文次郎は、素直に自分の気持ちを言える人ではありませんから…それが文次郎なりの気持ちの伝え方なのかな、って」

私に"女"でいてほしかった…?

"簪、似合うな"

どうして?

"お前の髪、好きなんだよ"

「……………」

じっと何かを考えて黙り込む花を見て、光はそっと微笑んだ。
そして食事を再開したとき、学園長と山田先生、土井先生が医務室に入って来た。その後ろには夜太郎もいた。

「先生…」
「夜太郎に、花が起きたって聞いたんだよ」

花のふとんのそばに座りながら土井先生が言った。

「気分はどうだ?」
「まあまあです」
「記憶が戻った、ということは全てを思い出したんだな」
「"あの夜"、何があったのか話してくれんかの」

花は、時々夜太郎も交えて全てを話した。

「なるほど…」

全てを聞いた先生方はふむ、と頷いた。

「よく帰ってきてくれたな」
「おかえり、花」

その言葉を聞いて、花は笑顔を見せた。
やっと、帰ってこれた気がした。


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