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「村咲花、お前に話したいことがある」
「うん…、私も」
そう言って向かい合う二人の顔を、六年生の面々は交互に見た。
「それじゃあ私たちは外に出ているか」
仙蔵がそう言って立ち上がろうとしたが、
「いや…お前らにも聞いてもらいたい」
夜太郎がそう答えたので、花は驚いて夜太郎を見た。
「昨日、光と決めたんだ。全てを話そう、ってな」
「っ、でも」
そんなことをしたら…!
しかし夜太郎は笑っていた。
「こんなことになっちまったんだ…光も覚悟はできてる」
「……!」
花は開きかけた口を閉じた。夜太郎はゆっくりと話し始めた。
「俺と光はツキヨタケ忍者だ。いや、元ツキヨタケ忍者か…」
六年生は全員夜太郎を見ているが、花は俯いて自分の両膝を見つめた。夜太郎は静かに話した。
自分たちの出生のこと、光の忍務のこと。
「……でもな、光はお前に心底惚れちまったらしい」
夜太郎はじっと文次郎を見た。文次郎が何を思っているのか、その表情から読み取ることはできなかった。
「光は忍務を捨てた…ツキヨタケを裏切ったんだ。そして、光の始末と学園長暗殺のために俺たちが…ツキヨタケ忍者隊が送られた」
夜太郎はそこで口を閉じた。花が顔を上げる。
「その情報を、利吉さんが山田先生と土井先生に伝えに来たの。それで…私はその会話を聞いちゃって」
花は視線を下に向けた。
「ツキヨタケが学園に着く前に、待ち伏せをして倒す…周りの人たちに気付かれちゃいけないから、大勢では動けない。誰が行くのか、ってことになって」
「……まさか」
留三郎が声を漏らした。伊作もハッとして花を見る。
「だから、あんなに怪我するまで鍛練してたんだね」
「どうして私たちに言ってくれなかったんだ?」
小平太が不満そうに尋ねた。
「ごめんね…先生たちが、秘密にするようにって言ったから。それで……」
「俺と花は戦って、相討ちに…そして俺たちは川に落ちて…」
医務室に沈黙が流れる。
花の脳裏には、あの夜に起きた出来事が浮かんでいた。
「あの…夜太郎はどうして生きて…?」
花が沈黙を破った。
「私が苦無で…首を……」
「ああ」
夜太郎は襟をはだけさせた。
「確かに首が斬られたが、動脈の位置とは少しズレててな」
首と肩の境目あたりに傷痕が見えた。
「まあ出血はひどかったけどな。川に落ちた後、俺はタソガレドキに助けられたんだ」
「!」
そうか、だから雑渡さんが……
「お前の髪留めのおかげだよ」
「え…?」
「タソガレドキとツキヨタケは昔から仲が悪くてな。その忍者隊の頭を助ける理由なんて無いし、俺は殺されてもおかしくなかった。
でも、その髪留めが俺の服に引っ掛かってたんだ。
あの組頭はそれがお前のものだって気付いて……俺のことを助けてくれた」
文次郎にもらった髪留めが…これも何かの縁、なのかな。
「まさか敵に命を救われるとはな…。で、お前は?」
「私は兵庫水軍に助けられたの。もうその時には記憶が無くて、何も覚えてなかった。
でも、昨日…」
やっと戻ってきた
ちゃんと、帰ってこれた
花は髪留めを握りしめる。
「う…んん…」
小さい声がして、医務室にいた全員が声のした方を見た。
光が、起きたのだ。
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