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夜太郎は、生きていた。
生きて、帰ってきた。

花は涙がこぼれそうになるのを堪えた。

良かった…!

「なんだよ、お前…俺が生きてて泣くほど嬉しかったのか?」
「ッ、良かった…!」

殺してしまったと思った。光ちゃんの大切な人を、私が……

「ま、お互い話したいことはたくさんあるだろうが…今はこっちだな」

夜太郎は新助に手裏剣を投げる。手裏剣は新助の手に刺さり、新助は火縄銃を落とした。
夜太郎はひらりと塀から降りて新助の目の前に着地する。そして、目にも止まらぬ早業で新助を縄で縛り上げた。

「夜太郎…てめぇ…!」
「悪いな新助、ツキヨタケは終わりだ。もう、終わりにしよう」

夜太郎は懐から宝禄火矢を出し、導火線に火をつける。そして、それを自分の足元に落とした。

「何して…」
「ツキヨタケはもう終わるんだ。俺たちが生きてちゃおかしいだろ?」
「し、死にてぇなら一人で死ね!俺は、野郎と心中する趣味はねぇぞ!」
「へぇ…奇遇だな、俺もだよ」

「夜太郎…っ」

花は塀を降りようとしたが、後ろから誰かに引き止められた。

「駄目だよ、花ちゃん。夜太郎くんの覚悟を無駄にするつもりかい」
「ざ、雑渡さん…!?」

雑渡昆奈門が、部下を伴って現れた。

「また近い内に会うかもしれないって言っただろう?とにかく今は、手を出しちゃ駄目だよ」

雑渡さんは花の両腕を掴んで放さない。相手は大人の男性、ましてや花は右腕には力が入らないので振り払えなかった。

宝禄火矢の導火線は、もう短い。

「で、でも…だって…っ!生きて、生きて帰ってきたのに…!また光ちゃんと会えるのに…!」

花の声が聞こえたのか、夜太郎がこちらを振り向いた。
そして、笑った。

「――――!!」

ドオオオン、
腹の底にまで響く大きな爆発音。真っ暗な爆煙が視界を覆った。
あまりの爆発に、戦場にいた全員が動きを止めてそちらに目を向けた。

身体中の力が抜け、花はただ呆然と煙を見つめていた。雑渡さんは花の腕を放した。

そのとき、煙の中から何かキラリと光るものが飛んできて、花は左手でそれを掴んだ。

青い髪留めだった。
失くしたと思っていた、片割れの方だ。

「渡しそびれるところだったぜ…ちゃんと返したからな」

強い風が吹き、煙が晴れた。
ボロボロになった夜太郎が、それでも立って笑顔を浮かべていた。

「はは、どうやら俺は悪運だけは強いみたいだな」

夜太郎の足元には、ボロボロではあるが命は取り留めた新助が倒れている。気を失っているようだ。

「終わった…やっと…」

全部、終わったんだ…

しかし夜太郎はハッとして、保健委員に手当てされている光のところへ走った。

「光!」
「お…おにいちゃん……」

光はポロポロと涙を流した。

「ご…ごめ、なさい…ごめんね…お兄ちゃん…!」

夜太郎も目に涙を浮かべ、光を抱きしめた。
他の忍たまたちは怪我人の介抱を始める。先生やタソガレドキ忍者は、残ったツキヨタケ忍者を捕らえていた。
花も塀から降り、左手で肩を押さえて左足を引きずりながらみんなのところへ向かった。

「花…!」

仙蔵が花に駆け寄る。

「お前、」
「仙蔵……ごめん、心配かけちゃって」

花は夜太郎と光のそばに行った。

「あ…花さん…っ!」
「光ちゃん」
「戻った、んですか…記憶が…?」
「光ちゃんのおかげだね」

花は微笑んだ。

ふらり、と花の体が傾く。倒れる寸前で仙蔵が受け止めた。

「気を失っている…無茶をしすぎだ、阿呆」

花は"ちゃんと"戻ってこれた
失ったものをすべて取り戻して

一際強い風が吹き、空からポツポツと雫が落ちてきた。
雨は炎を鎮め、すべてを洗い流した。

血も、涙も、何もかもを。


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