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ギギッ、チキッ、と刀同士の擦れる音がする。文次郎も新助も額に青筋をたてていた。
「も、文次…」
「バカタレ!早くしろ!」
花は手裏剣を新助に向かって投げたが、新助は後退してそれを避けた。
「あ…ありがとう」
花は文次郎の背中に言った。
まだ、顔を見れる自信が無い。
文次郎と新助の激しい刀のぶつかり合いが始まった。
「潮江文次郎…話は聞いてるぜ、光の男なんだってな?でもてめぇは何も知らねぇらしい」
文次郎は少し眉を潜めた。
「光の正体…学園に入学した理由…」
花はハッとして、新助に向かって苦無を投げた。しかし、それを弾いたのは文次郎だった。
「な…」
「悪いな、花。俺は本当のことが知りてぇんだ」
「だ、だめ…それは…!」
その時、一際大きな爆発が起きた。爆風が花や文次郎、新助を包む。
「おーおー、すげぇな」
「み、みんな…!」
今の爆発で、上級生や先生たちも大分ダメージを受けていた。
「よそ見してると危ないぜ」
新助は一瞬の間に、文次郎の刀を弾き飛ばして斬りかかった。文次郎はギリギリのところで急所を外したが、胸から肩にかけて大きな傷を負ってしまった。
「……さすがに倒れねぇか」
「当たり前だ…っ、バカタレ」
強がっているが、文次郎はもう限界を超えているはずだ。
文次郎だけではない。この場にいる誰もが傷つき、疲労していた。
もう、終わらせるんだ
新助と文次郎の間に入り、花は文次郎を塀の下へと蹴り飛ばした。
「なっ、」
「ごめん…文次郎」
もう、終わりにしよう
「随分と死にたがりなんだな」
「目の前で誰かが死ぬよりマシ」
私が代わりになるから
新助は刀を振るう。しかし、花の右手が刃を握り、刀を止めた。押しても引いても、動かない。
右手からはポタポタと血が流れて垂れるが、花は顔色1つ変えない。
「もし誰かが死んだとして…それは仕方ねぇだろ?そいつが弱かったからいけねぇんだろうが」
「弱いことは悪いことじゃない。これ、動かないでしょ」
花は右手に目を向ける。
「これが私とあなたの違い」
花は刀を離し、新助の腹を蹴った。新助は、倒れはしなかったが口の端から血を流した。
間髪を入れず、花は新助を塀の下へと蹴り落とした。新助は、地面に倒れているツキヨタケ忍者たちの中に落ちて、砂煙が新助の姿を隠した。
まだこんなものじゃ倒れないはず…
花は次の攻撃に備えて刀を拾おうと、新助に背を向けた、その時――
ダン、ダン、
「――ッ!!?」
火縄銃の音、そして左足と右肩に鋭い痛み。花はガクッと膝をつき、左手で右肩を押さえた。弾は貫通していた。
「…急所は外したか」
新助が火縄銃を担いでいた。足元にはもう一丁、銃口から煙が立ち上っている火縄銃が落ちている。倒れていたツキヨタケ忍者が持っていたのだろう。
新助は火縄銃を捨て、新しいものを担ぐ。
「これが俺とてめぇの違いだ。"向こう"に行ったら夜太郎によろしくな」
新助がにやりと笑った。引き金に指をかけ…
「おいおい、勝手に人を殺すなよ」
ふいに、声がした。若い男の声が。
花の盾になるように、目の前に男が現れた。新助の目が大きく見開かれた。
「な……!?」
紺色の忍装束に、紺色の髪の毛。
花はゆっくりと顔を上げる。
まさか……!
「久しぶりだな、村咲花」
「……月島…夜太郎…!」
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