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"………もん、じろう…?"
確かに花はそう言った。
"前"と同じように、花はそう呼んだ。
まさか……
「花…? お前、」
そのとき宝禄火矢が花、文次郎、光のところへ飛んできた。文次郎は光を抱えて、その場から離れた。
どむ、と爆発音がして花は煙の中に消えた。
「花……っ!」
「文次郎!」
文次郎の元へ仙蔵がやって来た。
「光は…!?」
「無事とは言えねぇが生きてる。すぐに伊作のところに連れてけ!それから……」
文次郎は上衣を脱ぎ、それで光の体を包んだ。
「もしかしたら…花の記憶が…」
「!」
仙蔵はハッとして花の方を見た。
煙の向こうで、花が立ち上がるのが見えた。
「………………」
花は周りを見回す。木々が燃え、黒い煙が立ち上り、たくさんの人が倒れているのが見えた。
一年生たちの泣き声が聞こえる。
誰かの断末魔が木霊する。
新助の声が響き渡った。
「まさかこんなときに記憶が戻るとはなぁ…いや、こんなときだからこそか?改めてはじめましてだな、村咲花」
ぶわ、と風が吹いた。
「そして、すぐにさよならだ」
花は刀を拾い、一気に塀の上へと飛び乗った。どちらからともなく刀を振るい、激しくぶつかり合う。
力や技術では新助が勝っている。しかし刀をぶつけるごとに、傷を増やしているのは新助の方だった。
「(なんだ…こいつ…?)」
さっきまでの花とは大違いだ。
「(くそっ、このままじゃ…!)」
花が大きく刀を振り下ろす。新助の刀が真っ二つに割れ、左肩を斬られた。
「…ッ!!」
新助は刀を捨て、宝禄火矢を花に向かって投げた。
「………」
花は宝禄火矢も真っ二つに斬った。
「そっか。あなたが光ちゃんの…」
花はゆっくりと新助に近づいていく。新助は後退りしながら、手裏剣や苦無を投げてくる。花はそれらを全て刀で弾いた。
「一つ、聞いてもいい?」
一歩、一歩、
花は進み、新助は後退する。
「あなたには、大切な人はいないの?」
「大切な…? いねぇよ、そんなやつ」
くだらねぇ、と新助は笑った。
「光ちゃんは?」
「裏切り者だろ。許嫁ってのも勝手に決められたことだしな」
花は刀を握り直す。
「だからあなたは弱いんだ」
一気に間合いをつめ、花は新助に斬りかかる。新助は受け止めず、攻撃をかわした。
「俺が弱い?」
「大切な人も守るものも無い、あなたはね」
「………ハッ」
軽く鼻で笑った新助は、素早い動きで苦無を花の右腕に刺した。
「――ッ!!」
花の腕の力が抜けた瞬間、新助は花の手から刀を奪い取った。
「守るべき大切な人がいない俺は弱い…夜太郎も同じようなことを言ってたな」
形勢逆転、今度は花が新助の攻撃を避けることとなった。花は右腕に刺さった苦無を抜いて応戦した。
「そんなもの重荷以外の何物でもねぇよ!」
花の苦無が弾かれ、遠くに飛んでいった。
「死ね」
刀が花に降り下ろされる。しかし……
キィィイン
刀同士のぶつかる音。
花の目の前には、緑色の大きな背中があった。ずっと追いかけていた背中が。
「て、てめぇ…!」
「文…次郎……」
文次郎が刀を持って、新助の攻撃を受け止めていた。文次郎はニッと笑った。
「死ぬのは貴様だ、バカタレ」
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