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「い…いいなずけ…?」
花は驚いて言葉を失う。文次郎は絶句していた。
どむ、と近くで爆発が起きた。ツキヨタケ忍者も忍術学園の人も吹き飛ばされた。花の足元に、血に濡れた紺色の頭巾が飛んできた
「今のでだいぶやられたな…仕方ねぇか、初めから期待もしてねぇし」
花の中で、何かがざわつくのを感じた。
「ただの使用人だし、駒はまだたくさん…、おっと」
新助はひらりと身を翻した。それまで新助が立っていたところには無数の手裏剣が刺さっていた。
花だ。花は刀を拾うと再び塀の上に飛び乗り、新助に向かって刀を振るった。新助は苦無で刀を受け止める。
キィン、ガキィッ、刀と苦無のぶつかる音が響いた。
「ッ、なんだよ?そんなに血相を変えて」
「……お前は」
花は新助を睨む。
「お前は仲間を何だと思ってるんだ!!」
花の刀が、新助の苦無を弾き飛ばした。
「チッ」
新助は懐から煙玉を出して、投げた。煙幕が花の周りを覆う。
「(どこだ…?)」
花はじっと耳を澄ます。
気配を感じない…一度煙の外へ出るか。
花がそう思ったとき、
「ッ!?」
煙の中から苦無が数本飛んできて、花の腕や足に刺さった。そのとき、背後に気配を感じて花は刀を振ったが手応えは無かった。
クックッ、と喉で笑う声が聞こえる。
「仲間を何だと思っているかって?あんな弱ぇ奴らのことなんか、仲間だと思っちゃいねぇよ」
「お前…!」
「戦場ではな、仲間だ家族だ恋人だ、なんてほざく奴ほど早く死ぬ……てめぇもな」
煙を裂いて、今度は手裏剣が飛んでくる。花は間一髪で避けた。
「新助!」
再び光が叫んだ。そのとき強い風が吹き、煙幕が晴れた。
「いい加減にして!私を殺しに来たなら私だけを殺せばいいじゃない。他の人は巻き込まないで!」
「お前だけじゃねぇよ。じじぃはどこにいる?」
「じ…、」
学園長か――!
「知らないわ…知ってても教えないけど。それより、!」
新助は苦無を光に向け、今にも投げようとしていた。
「知らねぇならいい……。消えな」
新助は冷たい笑いを浮かべ、そして…
ギィン!
鈍い音がして、新助の持っていた苦無はクルクルと回りながら宙を舞い、地面に落ちた。
「……てめぇ」
花が、苦無を持っていた新助の右手を蹴りあげたのだ。
「戦闘中によそ見なんて、余裕だね」
そのまま新助の腹を蹴る。新助は腕でガードをしたが、ズザザッと数メートル後ろに飛ばされた。
「あなたの相手はまだ私のはずだけど」
***
「花さん…」
花と新助の体術戦を見つめながら、光はぎゅっと下唇を噛んだ。
ついに、その時が来たんだ
全てを終わらせるときが
「光…?」
「ごめんね、文次郎。あとで全部説明するから…」
光は苦無を握る。
「今はこっちに集中して」
光と文次郎の前にはツキヨタケ忍者がズラリと並んでいる。
光はニッと笑った。くノ一の顔だ。
「……いい顔になってきたじゃねぇか」
「文次郎こそ」
こうして二人で居られるのも、これで最後だな…
少しだけ切なさを覚えながら、光はツキヨタケ忍者に向かって走り出した。
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