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花の無事を確認すると、小平太もツキヨタケ忍者の群れの中へと消えていった。入れ替わりに留三郎が姿を見せた。

「血だらけじゃねぇか」
「ほとんど返り血だから大丈夫」
「それはそれで怖ぇよ」

そう言う留三郎も、持っている鉄双節棍は血で濡れていた。

「タソガレドキの組頭に聞いていたが、まさかこんなに早く襲撃してくるとはな」
「私たちの留守を狙ったみたいなの。敵の中には、忍装束を着てるけど忍者じゃない人もいる」
「なんだそりゃ…ツキヨタケはよっぽど人員不足なんだな」

花と留三郎に向かって火矢が飛んできた。二人は左右に分かれて火矢を避け、またそれぞれ戦いに戻っていった。

花は塀のすぐそばまでやって来ていた。

「(この上に…)」

若頭が座っているはず。

花は、対峙していた忍者の頭を蹴り、相手が倒れるのを見もせずに塀の上に飛び乗った。
突然現れた花に、若頭は感心したように「へぇ…」と呟いた。

「さすがだな。噂は聞いてたぜ…村咲花」

若頭はゆっくりと立ち上がった。

「夜太郎を倒した女だって聞いてたからどんなやつかと思ったら…虫も殺せねぇような顔してるじゃねぇか」

夜太郎…?
誰なのかはわからないが、初めて聞いた気がしない。

「ああ、わかんねぇか…記憶喪失なんだろ?まあでも安心しろよ、俺とお前は今ここで会ったのが初めてだぜ」

若頭は一瞬で花の隣に移動した。

「そして、最後のな」
「!」

がキィン、と刀と苦無がぶつかる音が響いた。花はすぐに後退し、若頭から離れた。
危ない…
あと一瞬でも遅かったら首を斬られていた…

冷や汗が頬を流れた。しかし若頭は再び花のそばに現れ、刀を振るった。花は苦無で刀を受け止める。

「(速い…)」

追いつけない…!

ザシュ、ブシュ、腕と肩から血が吹き出た。血が目に跳ね、花は一瞬動きが止まった。

「ッ、」

刀が花の首に真っ直ぐ迫ってくる。

「終わりだ」

鮮血が舞う。
しかし、それは花の血ではなかった。
刀を握る若頭の右手に手裏剣が刺さっていた。花はハッとして手裏剣が飛んできた方を見た。

「潮江くん…!」

塀の下で、文次郎が手裏剣を構えていた。若頭は花を思いきり蹴飛ばし、花は文次郎のすぐそばに叩き落とされた。

「花っ!!」
「う、ゲホッ…だ、大丈夫…ありがとう、潮江くん」

若頭は手に刺さった手裏剣を抜いて、こちらに投げてきた。文次郎が苦無で弾く。

「"潮江"……そうか、てめぇが…」

若頭の顔が歪んだ。

「光を…俺の光を……!」
「光…?」
「…な、んでお前が…光を知って…?」
「花っ!文次郎っ!!」

留三郎の声で、花と文次郎はハッとした。若頭に気を取られている内に、二人のツキヨタケ忍者が襲いかかっていた。
刀が花と文次郎の首を狙って……

「うぐああああっ!!!」

刀が首をかすめる直前、ツキヨタケ忍者は、どこからか飛んできた宝禄火矢が命中して吹き飛ばされてしまった。

「全く…死にたいのか、お前らは」

この声は…

「仙蔵!」

いくつもの宝禄火矢を抱え、見事なサラストをなびかせて仙蔵が現れた。ということは……

「新助!」

キッと若頭を睨んで、光が姿を見せた。

「よぉ、光…会いたかったぜ」
「"新助"って?」
「あの人の名前です」
「……どうしてお前が知ってるんだ?」

文次郎の問いに、光は答えなかった。

「ひでぇじゃねぇか、光。俺はずっとお前のことを待ってたってのに…
あまりにも遅ぇから迎えに来ちまったぜ」
「わざわざ会いに来たりしないで、って伝えたはずだけど?」

二人の会話に、花と文次郎はついていけなかった。

「お、おい、光…どういうことだよ」
「光ちゃん…?」

光は目をつぶり、そして開いた。何かを覚悟した強い瞳をしていた。

「あの人は…現ツキヨタケ忍者隊の若頭で、次期ツキヨタケ城主でもあります。
私の………許嫁です」



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