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「これ、って…」
「まさか…奴らか!」

ツキヨタケ…

嫌な予感は的中してしまったらしい。

花と文次郎は塀を越えて学園の中に入った。あちこちに砲弾や手裏剣、苦無が落ちていて、火が燻っている部分もあった。
学園の裏でさえこんな状況だ。正門の方は……!

人の声や石火矢の音を辿って二人は正門の方へ急いだ。

「先生!」

一年は組の忍たまたちを守っている土井先生を発見し、花と文次郎は駆け寄った。

「花!文次郎!よかった、帰ってきたか」

予想通り、正門の方は酷かった。まさに、戦場だ。

「せ、せんぱぁぁい!!!」

花と文次郎の姿を見つけ、は組のみんなが泣きながらしがみついてきた。中には怪我をしている子もいる。

「大丈夫だよ、もう泣かないで」

花はみんなを抱きしめる。

「ツキヨタケですか」
「ああ…六年生の留守を狙われた」

チッと舌打ちをして、文次郎は袋槍を取り出した。文次郎の得意な武器だ。

「先生と五年生が中心になって応戦しているが…」

少し離れたところで、先生や五年生、四年生が紺色の忍装束を着た忍者を相手に戦っているのが見えた。三年生や二年生は一年生の守りに徹している。

文次郎はそれを見ると、一瞬ニッと笑って戦場に向かった。忍務に物足りなさを感じていた彼には、やっとギンギンに忍者できるのが嬉しいのだろう。

石火矢の流れ弾が花たちのそばに飛んできた。

「ここは危険です」
「少し奥に、体育委員会が日頃掘っていた塹壕がある。この子たちをそこへ」

花と土井先生はは組を塹壕へ連れていった。

「お前たちはここにいろ」
「私は向こうに加勢してきます」
「花先輩…」

潤んだ瞳で見つめてくるは組。花は微笑んだ。

「大丈夫!みんなのことは私が守ってあげるから」

しかしは組の不安は拭えない。庄左ヱ門が花を見上げて、言った。

「先輩、今度は……ちゃんと戻ってきてください」

思いがけない言葉に花は驚く。

"ちゃんと"戻ってきて
今度は何も失うことなく

「うん……今度は、ね」

花は再び微笑むと、苦無を握って戦場へと走り出した。

花は覚えていないが、かつて花と戦ったツキヨタケ忍者隊は全滅した。つまり今学園を襲ってきているのは新しく作られた、新ツキヨタケ忍者隊だ。
一人だけ、塀の上に座って戦いを眺めている忍者がいた。新ツキヨタケ忍者隊の新しい若頭だ。年齢は、前若頭の夜太郎と同じくらい。外見も夜太郎に勝るとも劣らないが、その顔には怪しい薄ら笑いを浮かべている。
人が傷付き倒れていくのを見るのが楽しい、とでも言うように…

「花先輩!」

たった今ツキヨタケ忍者を倒した久々知が駆け寄ってきた。久々知も怪我を負っている。

「大丈夫?」
「ええ、なんとか…正直、六年生の先輩方がいないのは痛かったですけどね」
「まさかこんなことになるなんて」

そこへ文次郎が現れた。血で忍装束が赤く染まっているが、返り血だろう。

「いや、俺たちがいなくてよくここまで耐えられたな」
「先生方もいらっしゃいましたから」
「ッ!」

花は久々知の頭上へ苦無を投げた。刀を振り上げて久々知を襲おうとしたツキヨタケ忍者は、苦無を腕に刺されて刀を取り落とした。

「ふう…」
「あ、ありがとうございます」
「うぅ、ぐ……」

ツキヨタケ忍者は苦無を引き抜いて、それを投げようと腕を振り上げたが…

「え、」

苦無を握っていた腕が、飛ばされて遠くに落ちた。忍者は右腕を失っていた。
花が、落とした刀を拾って一瞬で斬ったのだ。
無くなった己の右腕を見て、彼は戦意を無くしたようだ。

「……腕だけで済んでよかったね」

刀は血に濡れて怪しく光った。
花は軽い口調で微笑んだが、その目は憐れみで満ちていた。

返り血が花の頬に飛び、涙のように流れた。


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