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「わあっ、お店がいっぱいある!」
「当たり前だろ」
「花ー!こっちに甘味処があるぞー!」
「甘味処…!!」
花は目をキラキラさせた。少し離れたところで小平太が手をブンブン振っている。
留三郎は、小平太のところへ行こうとした花の腕を掴んで引き止めた。
「待て待て待て待て!俺たちは甘味を食べに町に来たわけじゃないだろ!」
昨夜の約束通り、一行は町へとやって来ていた。記憶上初めての町に、花は大はしゃぎし、小平太もそれに便乗していた。
「まったく、子供かお前らは」
「あんみつ食べたい!」
「わかったから少し落ち着け。周りから変な目で見られるだろうが」
「買い物が終わったら甘味処行こうね」
「はーい」
伊作がなだめると花は大人しくなった。
遅く出てきたので、もう昼になっていた。
「まずはお昼ごはん食べようか」
「たしか近くに旨いうどん屋があったぜ」
「そこがいい!」
六人でぞろぞろとうどん屋に向かう。
「ん?おい、あれ…」
何かに気付いた留三郎が指をさす。
「文次郎と光じゃねぇか?」
その先には、うどん屋に入ろうとしている文次郎と光がいた。
「あ、ほんとだ」
「おーい、文次郎!光ー!」
呼び声に気付いて振り向く二人。
「お、お前ら…!」
「こんなとこで会うなんて偶然だね」
「六年生全員集合だな」
「まだ夏休み2日目なのに…」
お店は空いていたので、8人全員が同じ机に座ることができた。
「で、お前らは何してんだよ?」
湯気をたてたうどんが机に並ぶと、文次郎が聞いてきた。
「昨日から私の家にお泊まりしてるの」
「えっ、お泊まりですか…?」
「遊びに来たついでに」
「ついでにって、お前は…!普通に考えて危ないだろ!」
「危ないって何が?」
花はきょとんとした。隣では小平太がズルズルとうどんをすすり、その跳ねた汁は伊作の目に直撃した。
「女の家に男が5人もいるんだぞ!どう考えても危ないだろうが!」
「ちょ、文次郎、声大きい」
「危なくないよ、友達だもん」
「そうじゃなくてだな、友達だと思ってた奴が豹変する、なんてことはよくあるんだぞ!」
「落ち着け文次郎、きわどい話を真っ昼間のうどん屋で大声で話すお前の方が危ないぞ」
仙蔵の言う通りだ。文次郎はぐ、と堪えてうどんをすすった。
「安心しろ、別にそんな間違いは起こっていな……ん、いや。花が小平太に襲われそうになったが、問題無しだ」
ブバッ、
文次郎はうどんを盛大に吹き出した(正面に座っていた伊作が顔面で全部受け止めた)。
「うわ、きたねっ!!」
「せ、仙蔵がそんなことを言うからだろ! おい小平太!どういうことだ!?」
「ん?何が?あー、昨日の夜のことか?実は私あんまり覚えてないんだよな」
何でだろうな、と首を傾げる小平太。頭に何発か蹴りを喰らったせいだろう、記憶が曖昧らしい。
「すごくムラムラしてた気はするけど…私、もしかして花に迫っちゃった?」
ズイ、と花に顔を近づける小平太。悪戯っぽい笑みを浮かべている。
「こ、小平太…?」
「可愛いもんな、花は。スタイルも良いし、優しいし、男なら誰だって一度は憧れるんだぞ。なあ、私と付き合ってみない?」
「小平太あああああっ!!!!」
「文次郎うるさい!」
文次郎があまりにも騒ぐので、既に食事も終えたこともあり8人は店を出た。
「うどん、美味しかったね」
「だろ?また行こうぜ」
「今度は絶対に文次郎抜きな」
「何でだよ!」
談笑しながら、8人は通りを歩いていった。
まだ太陽は真上に昇ったばかりだった。
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