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夕食と風呂を済ませ、花は部屋に布団を敷いた。
元々花が持っていたものと、大家さんに貸してもらったものとで2枚。
「川の字になって寝れば大丈夫、かな?」
「まあ夏だし、布団が無くても平気だろ」
「じゃあ留三郎は床で寝ろ」
「なっ…!」
全員が布団の上に揃うと、小平太が楽しそうに言った。
「修学旅行みたいでわくわくするなー!」
雰囲気を出すために、灯も1つだけ。淡い橙色の光が6人を照らす。
「よし、じゃあ恒例の行事といくか」
留三郎が切り出す。
「恒例の行事?」
「枕投げか!?」
「ま、まさか怖い話…!?」
小平太は顔を輝かせ、花は青ざめる。
「違ぇよ。こんな時間に騒いだら近所迷惑だし、怪談も怖がるのは花だけだ。
こういう夜には付き物じゃねぇか。ズバリ!恋バナだろ!!」
なるほど、修学旅行の夜といったら。
「す、好きな人かぁ…」
「…………」
頬を染める伊作と長次。
「幽霊怖くないの…?」
「私は笑った長次の方が怖いぞ」
話題が違う花と小平太。
「そういうお前はどうなんだ、留三郎」
仙蔵はにやにやして聞き返した。
「はっ?お、俺か!?い、いねぇよ好きな奴なんて!!」
赤面して叫ぶ留三郎。その姿はまるで…
「留ってば潮江くんみたい」
「似た者同士だからな」
「あんな鍛練バカと一緒にすんなよ!」
「本当は好きな人いるんでしょ?」
「だから!そんなもんいねぇよ!」
「(わかりやすい…)」
「花はどうなの?」
伊作に問われ、花は一瞬言葉に詰まった。
「え…、うーん…」
騒いでいた留三郎も静かになり、全員が花の言葉を待つ。
「わかんないや。私、まだみんなのことよく知らないし」
その言葉に裏は無いようだ。
「そりゃそうだよなぁ」
「恋愛云々より、今は自分の記憶の方が重要だもんね」
みんなも納得したらしい。
「だったら、私が教えてやろうか」
それまでずっと黙っていた小平太が、いつもより少し低い声で言った。
「え、」
小平太は花に覆い被さり、片手で花の頬を包む。
「私が教えてやるよ」
ぐっと顔を近づけ、耳元で囁く。
「体の隅々までな」
ゴッと音がして、次の瞬間、小平太の頭は床に突っ込んでいた。シュ〜、と煙まで昇っている。
花が目を上げると、留三郎、長次、伊作が右足を上げたまま立っていた。
「やけに静かだと思ったら…」
「欲情してただけかよ」
長次は青筋をたてて笑っている。
「し、仕方ないだろ!夜に女の子と一緒の部屋にいたらムラムラすぐぶっ!!」
顔面に留三郎の蹴りを受け、小平太は床に倒れて動かなくなった。
「どうする?外に放っておくか?」
「縛っておく?」
「そ、それはさすがに…」
「花がそう言うならいいけどよ。じゃあ小平太は一番端で」
寝る順番は花、仙蔵、伊作、留三郎、長次、小平太となった。
「まったく小平太のやつは……(ボソッ)気持ちはわかるけどな」
「僕たちもそろそろ寝ようか?(ボソッ)留さんも蹴り喰らう?」
「花は明日はどうするんだ?」
「んー、買い物に行きたいな。休み中の食料が無いから」
「じゃあ明日みんなで町に行こうよ。花、行きたがってたからね」
「でも、みんな家に帰るんじゃ…」
「もう1日くらい平気だろ」
「ほんとに?じゃあ決まり!」
花は嬉しそうに笑った。
全員が布団に潜り、長次が灯を吹き消した。
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