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「文次郎、最近花さんのことばっかり見てない?」

実技の授業中、ふいに光が話しかけてきた。

「あ…そうか?」
「うん、だって今も見てたよ」

確かに、今光に声をかけられるまで、文次郎は花のことをぼーっと見つめていた。花は、仙蔵に火縄銃の使い方を教えてもらっていた。

花が学園に帰ってきて、もうすぐ1ヶ月が経とうとしていた。最近の文次郎は、花の方をぼけーっと見つめてはハッとして我に返り、見つめては我に返り、を繰り返していた。

何故だかは、自分でもわからなかった。

***

今日は実地訓練がある。

「二人一組で行ってもらうからな。くじ引けー」

先生がくじの入った箱を持って回る。結果、花と文次郎、光と仙蔵のペアになった。

「頑張ろうね、潮江くん!」
「おう」

花とか…まあ花とはやりやすいから良いか。それよりも、

「仙蔵、光を頼むぞ」
「フン、私を誰だと思っている。女の扱いはお前より慣れている」
「(言い方がムカつくが…)光、仙蔵に何かされたらすぐに言えよ」
「大丈夫だよ、文次郎。文次郎こそ、花さんに怪我させちゃダメだよ?」
「……ふふっ」

そんなやり取りを聞いて、笑う花。

「潮江くんって意外と過保護なんだね」

純粋で無邪気な笑顔。
"前"の花だったら、こんな笑顔は見せなかった…
仙蔵は複雑な気持ちで花を見つめた。

「そうなんですよ、もううるさいくらいで」
「うるさいとは何だ!」
「潮江くんにとって光ちゃんがそれ程大事だってことだよ」
「………こんなやつと一緒にいても暑苦しいだけだ。そろそろ行くぞ、光」
「はい!」

仙蔵と光は先に行ってしまった。

「じゃあ私たちも行こっか?」
「そうだな」

先に出発した同級生たちを追い、花と文次郎も戦場へと向かった。

***

「よし、これで終わり!」

さすがと言おうか、花と文次郎ペアは、昼食までに与えられた課題を終えることができた。

「あー、お腹すいた」
「メシにするか」

食堂のおばちゃん特製弁当を食べていると、仙蔵と光がやって来た。

「おつかれー」
「課題、どうですか?」
「俺たちはもう終わったぞ」
「えっ、早ーい!!」

二人も弁当を広げる。

「さすが花だな」
「尊敬します」
「潮江くんが気遣ってくれたからだよ。すごく動きやすかったもん」

ありがとね、と花は文次郎に笑顔を向ける。

「あっ、文次郎、顔赤くなってる!」
「は!?な、なってねぇよ!!」
「なってるよ!」
「た、たぶん暑いからじゃないかな」
「いえ、絶対花さんのこと見てたからですよ!」

わいわいと盛り上がる三人。
仙蔵は弁当を口に運びながら、じっと花の様子を伺っていた。
光にからかわれている文次郎のフォローをする花。その表情に、悲しみや切なさのような感情は入っていなかった。

「(もしかしたら…)」

みんなのことを思い出してほしい
早く記憶が戻ってほしい

そう思っていたけど、

「(もしかしたら、このまま記憶が戻らない方が…)」

花にとって、幸せなのではないか?

文次郎への想い、つらくて苦しい記憶、
死を覚悟したこと
それをわざわざ思い出させるなんて…

仙蔵は花から目を離し、視線を空に向けた。
ボオー、と法螺貝の音が響き渡った。


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